突然だが読者諸君、貴様等は風俗に行ったことはあるかね?
恥ずかしながら僕はない。『おっぱぶ』には一度 行ったことはあるものの、実際に行為が行われる本格派風俗店ならびにデリヘルの類は未だ未経験。横浜~川崎区間を根城にしている先輩に何度も誘われ、ほぼ強制的に堀之内まで肩を掴まれ連れられたこともあったが、その都度 先輩が稲毛通りのローソンATMでいそいそと金を引き出している隙に『お疲れさまでした』とラインして帰ってた。翌朝呼び出されて喫煙ルームで怒られるのがルーティーンだった。
あるサイトの統計によると男性の4割は風俗経験者であるという。しかし、僕個人の肌感覚としては比較的給料の良い会社に勤める男性であれば風俗経験者は7~8割にも至ると思う。実際 僕の働いていた職場や関連会社ではみんな死ぬほど残業して金を稼ぎ、貯まった金と性欲を風俗につぎ込んでいる先輩社員が多かった。命削って精を出す、なんだかサケみたいだなぁと思ったのを覚えている。
そういうわけで多くの男がお世話になっているだろう風俗。
しかし、一般的にはあまり受け入れられない職業だと思う。婚活の場で『趣味は風俗です!』なんて言ったらその場が凍ること必須。金の匂いに目敏い一般婚活出席女性でも、風俗に費やせる金がある=財力がある、とは見てくれずに『非常識な男だなぁ』と切り捨てられることだろう。どうにも後ろめたい仕事、娯楽という印象の風俗。
というのは風俗が“貧困女性の末路”としての職業であったり、“相手のいない可哀そうな男性の憩いの場”という認識が出来上がっているからだと思う。
今回紹介する『フルーツ宅配便』は、そんな風俗(デリバリーヘルス店)で働く女性達を扱ったマンガである。
フルーツ宅配便
現代社会で行き場のない貧困女子が流れ着く場所、
デリバリー・ヘルス──────
もし、離婚して養育費を受け取れなかったら…
もし、親の介護で、今の仕事を辞めたら……
誰もが陥るかもしれない人生の困難、
誰の手も届かない絶望と孤独が、ここにある。引用:Amazon
あらすじ、としては優良デリバリーヘルス店『フルーツ宅配便』に働く従業員や嬢、そしてその客を絡めた人情劇が主。上の引用文のように、人それぞれが抱える人生の困難や孤独などにフォーカスを絞った作品がフルーツ宅配便である。
始めに断っておきたいのだが、個人的には絶賛するようなマンガではない。
特別 続きが気になるほどでもないし、絵も決して上手いほうではない。正味な話、そこまで面白いマンガには百数話読んでも思えなかった。少なくとも鬼滅の刃とかワンピースに夢中なキッズにウケるマンガではないだろうよ。10代でフルーツ宅配便にハマっている子がいたら何か心の闇を抱えてることだから丁寧に話を聞いてあげよう。
とにかく面白さがイマイチ分からなかった僕だが、それでも百数話読めたのは何なのかを自分でまとめるために今回は記事にしてみた次第。後述するが大人には分かる面白さがあると思うので、自身をアダルト認定できる方のみ読み進んでくれ。キッズは大人になってから読んでくれ。読む時期を間違って捻くれた嫌なヤツになっても僕は責任取れんぞ。
エロ、ではなく『金と人』
まず男性読者諸君にお伝えしておくべきだと思うのが、エロは一切ないところ。ドラマ版だと女優の艶っぽい雰囲気があったりするが、マンガ版は絵のシンプルさもあってまったくムラッとこない。数話読んで
『おいエロシーンまだかよ!あのシーンで裸になるのは必然的だったろ!床屋のシーンで髪の毛ないみたいなもんだぞ!!』
みたいにもっともなこといってもみっともないからエッチなシーンは期待しないように。
たしかにデリヘル女子を描いたマンガということで僕含め、嬢のテクニックやら小技、裏話のような男心をくすぐるアレコレが描かれていると思いきやエッチなシーンは皆無。行為のシーンはことごとくスキップされていた。そういったシーンが見たい方はΩ子のマンガを読むと良い。フルーツ宅配便では皆無に等しいぞ。
では何がテーマなのか。金と人、である。
フルーツ宅配便、のテーマは詰まるところ『金と人』だ。特にそれが顕著だった登場人物を数人紹介すると
- 彼氏の影響で覚醒剤依存症になってしまった女性
- 自分の子供と妻を放っておいてデリ嬢と駆け落ちしようとする男性客
- 社長の男性と知り合ったが彼の母にデリヘル勤めを突き止められて、世間体などから婚約破棄になった嬢
- チンピラと組んでデリヘル店から金を巻き上げようとする嬢
といった具合。
他の嬢も、ここまでじゃないにしろ貧困女子。お金に困っているからデリヘルをしている女性達なので、話としては全体的に後ろめたい感じが漂っている。金と人、その手のジャンルは闇金ウシジマくんが重箱の隅から隅まで(風俗関係の女性も含め)描き尽くされたように見えるが、フルーツ宅配便にはウシジマくんにはない長所がある。
1話完結というテンポの良さ
基本的にフルーツ宅配便は1話完結である。
先ほど紹介した中々ドギツイ登場人物たちの回もすべからく1話で完結した。重たい話をこれ以上なく重たくしたのがウシジマくんに対し、『まぁ、そんなこともあるわな』くらいの軽さでまとめたのがフルーツ宅配便だ。
普通のマンガでは数話に分けるような話を1話でまとめてしまうあたりにフルーツ宅配便独自のテンポが生まれていた。そして、それが話に妙なリアリティを付随させていたと思う。
というのは世の中、明確な悪は存在しない場合が多いからである。育ってきた環境、過去の自分の選択、そういった今の自分ではどうしようもないことの集大成が現状であるからして、人から見たら悲惨な状況であっても『まぁ、仕方ないよね』くらいの感情でやっていくしかない、という感じが絶妙にリアル。に思う。
闇金ウシジマくんのようにキャラ1人の転落から絶望・救済(?)までをみっちりと描くか、それともフルーツ宅配便のように1話完結でサラっと描くか。それぞれ違いはあるものの、何気ない日常の中にある暗い部分にスポットがしっかりと当てられていたし、なにより1話完結な分 気楽に読めるというのは時間やら仕事やらに追われた大人の方には丁度良いだろう。ウシジマくん読むと疲れるくらいに精神が摩耗した大人にはうってつけのお手軽さである。
酸いも甘いも噛み締めてきた大人に刺さる面白さ
フルーツ宅配便を面白いと感じるにはある程度の年齢が必要だと思う。先述したような誰のせいでもないどうしようもない経験をしたり、心底 金で困ったり…、そういった負の体験こそが物語を面白くさせるスパイスになる気がしてならない。むしろ、ナイーブなキッズの場合『登場人物クズばっかじゃん!!は?!』となるだけだろう。クズだって色々事情があることを知るにはやはり年齢、経験がないと分からない。
あるエピソードを紹介しよう。
妻と死別した初老の男性。心にぼっかり空白ができたように寂しい毎日を過ごしていた。
男性を見かねた会社の同僚、男性にデリヘルを勧めてデリヘル嬢を手配。
訪れたのは自分と同じくらいの女性。容姿はともかく、非常に気立ての良い彼女。『ここだけは素直に、嘘でもいいから楽しみましょう』といって落ち込んだ男性を励ましてくれた。男性が心を許し、妻と死に別れたことを言うと、女性の方も夫とは死別しているという。
ほどなくして男性は女性にドハマり。貯金をどんどん切り崩して女性を指名した。
あるとき、男性はどうしても彼女のことが気になって彼女の家を探す。しかし、そこには彼女と一緒に仲良く遊ぶ子供、そして夫がいて……
途方に暮れた男は何も言わずに、物語は終わる。といった感じの話があった。切ない。。
この場合、悪いのは誰だろうか。
嘘をついた女性だろうか。それとも勝手に彼女の家を調べた男性だろうか。デリヘルを男性に勧めた会社の同僚、そもそも悪い人はいたのだろうか。
このエピソードでは“嘘は嘘” と思うか、“相手を気遣った優しいウソ”、と捉えられるかどうかでもフルーツ宅配便の面白さは180度違う。
とどのつまり、ある程度 人生経験がないと面白いと思えないと思う。そういったわけで僕的には『えぇ、これで終わり?何だったんだこの話は?!釈然としねぇ!!』となる回が多かった。とはいえ明確な敵、悪者が存在しない、という点が現実世界に似通っているのは分かる。そういったアンビバレントな感じ、曖昧な感情なんかを経験した大人には、とてつもなく面白い作品なんだろうと切に感じた。
長々と解説したが、そんな感じだ。
面白いとは思うけど僕的にはイマイチ、とてもじゃないが人に勧める作品ではないと感じたフルーツ宅配便だが、何度も説明したように「大人」の方には是非 読んでいただきたい。特に何ということなく落ち込んでいる大人の方なら面白さが分かっていただけると思う。
マンガ版はとにかく、絵があまり…なのでストーリーが気になった人はドラマから入っても良いだろう。
多分こちらもおススメ