男女の分断を深める
的な批判的レビューも多く見受けられ、
なにが男女平等だ!
女の方が男より超絶優遇されてるだろが!
的なネット狂戦士を多く生み出したとされる作品が「82年生まれ、キム・ジヨン」。ちなみに「キム・ジヨン」というのは82年生まれで最も多い女性の名前。日本でいうところの「鈴木 裕子」や「佐藤 愛」にあたる。作中では一般的な女性であるキム・ジヨンが、韓国社会の構造や因習によってうける差別や困難を描いている。
近年、女性たちの多様な物語が世の中に表れ、大きな意味を持って受け入れられてきた。当作品はその火付け役にもなったと称されており、今回 筆者も読んでみた。
面白かったの?
う~~ん、面白い・面白くないの2極で考えると、男の自分としては「面白くない」ように感じた。なんというか、無自覚で男であったことに罪悪感すらおぼえるような塩梅。これでもうちょっと生活・心に余裕がなかったら、
「ふざけやがって!男だって毎日 苦労しるわい!」
とまったく的外れな意見に至っただろう。
男女平等や男女差別について、意見を言うのも押し付けられるのも好きじゃないが、自発的に「知る」ことはどう考えても有意義だと思う。結論を下す必要はなく、分からないことは分からないまま放置するのも大切だが、知ることがもっと重要である。で、偏見の凝り固まる直前の男性読者にこそ読んでほしい作品が「82年生まれ、キム・ジヨン」だ。
というワケで、今回はそちらについて。
随所にネタバレや本文の引用もあるので、気になる方はここらでブラウザバックしてね。
もくじ
82年生まれ、キムジヨン
大まかなあらすじ
主人公は33歳の主婦キム・ジヨン。
多忙な子育てを贈っている中で、徐々に異常な行動をとるようになる。が、それらは別に本題ではない。なんだったら、なんでそんな異常な行動が起きたのか?という原因についてはあまり触れらない。
本作のメインテーマは、主人公のキム・ジヨンが生まれてからの半生。またキム・ジヨンが関わった女性の境遇などについても掘り下げ、韓国において、いかに女性が女性であることによって不遇・不当な扱いを受けているのか、に焦点が当てられている。
ストーリー的面白さは少ない!
感動・ワクワク
といった要素は極めて少ない「82年生まれ、キム・ジヨン」。
先述したように、作品の主人公キム・ジヨンという女性が、受診した精神科で聞き取った話を年代ごとに分け、カルテにした形で構成されている。彼女が韓国社会で成長する過程において、女だからという理由で受けてきた差別・困難を知ることが出来るのが当作品の大きな特徴である。
知ることが大切!
ここまで読んで、反射的に
すでに女尊男卑だろ!
権利だけを声高に主張するな!
と非難したくなってしまう男性にこそ読んでほしい本が「82年生まれ、キム・ジヨン」。
推察するに韓国社会での女性の生きづらさはヤバい。日本のそれとは桁違いにも感じるくらいだった(ある程度は脚色されてるのかもしれないが)。しかし、日本でもいまだに
「女に大学行かせても仕方ないだろ!」
的なコトをマジで考えている方がいるのも事実。というか僕の師匠(59)がソレだ。なんでも「どうせ婿に行くんだから」という理由で次女の大学進学を否定し、諦めさせた実績がある。会社ではそれなりに重役に就いている方である。
あまり考えすぎても色々と大変なのは分かる。実社会では答えのない問題の方が多い。しかし、それまでの因習に従って個人の意思を否定・制限してしまうのは如何なものなのか?と思う。
師匠はもうすぐ還暦を迎える。凝り固まった思想を変えるには相当のエネルギーがいるし、僕や周囲の人はもう諦めているだろう(それ以外は基本 良い人だし…)。
しかし、当記事にフラッと立ち寄るくらいに時間があり、柔軟に考えられる素養や心の余裕がある方には是非 読んでほしい。程度はどうであれ、日本の女性からも「あるある」と同調を得られている作品が「82年生まれ、キム・ジヨン」だぞ。
82年生まれ、キムジヨン
グッときた文章・名言
上の通り、すでに映像化されている作品ではあるが、活字ならではの刺激があった。むしろ、絵がないからこそ読者の中で最大限に意味や情景が膨らむ。
というワケで、「82年生まれ、キム・ジヨン」を読んでみて僕が個人的にグッときたパートや名言を抜き出しておく。
女の子も男の子と同じように…
女の子も男の子と同じように適正について悩み、社会人としての未来を計画し、それに近づくために努力し、競争していた。むしろ、女だからといってできないことはないという社会からの支持や応援の声が高まっていた時期である。
(中略)
だが、決定的な瞬間になると「女」というレッテルがさっと飛び出してきて視線をさえぎり、伸ばした手をひっつかんで進行方向を変えさせてしまう。それで女子はなおさら混乱し、うろたえる。
未来なんて分からないのに…
それに、私が結婚をするかどうか、子供を産むかどうかだってまだ分からないじゃない。ううん、その前に死ぬかもしれないのに。どうして、起きるかどうかも分からない未来の出来事に備えて、今やりたいこともやらずに生きなきゃいけないの?
幸せの本質をついたようなキム・ジヨンの言葉。
似たような概念に、アドラー心理学があるので、気になった方は読んでみてね。
↑中学生でも読めるくらいに簡単な言葉で、理路整然とした文章で哲学が解説されてるよ。
時間ではなく心が…
幸い会社には良い人が多かったので、キム・ジヨン氏は覚悟していたより苦労しなかった。悔しいことに疲れることも思ったより少なく、それなりにうまく社会人生活を送っていた。彼氏にはおいしいものをたくさんおごってあげたし、かばんや服、財布も買ってあげたし、ときどきタクシー代もあげた。その代わり、彼の方が待たされる機会が増えた。
(中略)
彼は電話やメッセージも待たされた。キム・ジヨン氏が会社に入ってから、電話で話す時間もメッセージの数もすっかり減っている。彼は、通勤時の地下鉄やトイレに行ったとき、ランチタイムの後などにささっとできないのか、メッセージ一本送る時間もないのかと問い詰めるのだが、キム・ジヨン氏は時間がないのではなく、心に余裕がないのだ。
昔 韓国人と付き合っていたが(超短い期間!)、そのときにやたらとメッセージをすぐに返すことを要求されたんだけど、彼女なりに焦りもあったのかしらん。
そうして同棲を終えると、今度は連絡頻度が格段に高まった。
既読してそのままにしておくと数十分後には電話がくるといった状態になった。
図書館で本を読んでいるときでも連絡がくる(連絡自体は本当に些事。『How are you~~?』みたいなもん)。既読を付けたら最後、チャットがスタートして読みたい本になかなか集中できなくなってしまうということが多々あった。
本を読んでいるときは、ちゃんと『今は集中して本を読みたいから、またあとでね』なんて言えば大丈夫だったんだけど、そのほかにもありとあらゆるときに連絡がくるので、その都度 彼女が納得できる理由を慎重に吟味して返答する必要があった。
そんなことをしていたら当然 疲れてきたので、どうにかメッセージを確認しつつも既読をつけない工夫をするようになっていった。
あのとき、時間は有り余っていたんだけど どうにも返信できなかったのは「心の余裕」がなかったんだなぁ、と。当時の自分の気持ちにピッタリな表現が「82年生まれ、キム・ジヨン」にはあった。普遍的な男女のアレコレにも含蓄があったので面白かった。
すでに感情は乾ききってしまい、そんな感情の埃の上に火種が落ちたら打つ手はない。いちばん若く、いちばん美しかった時期は、こうしてむなしく燃え尽き、灰になってしまった。
なんとなくグッときた文章。
吐き捨てられるネットスラング
サラリーマンの疲労も憂鬱さもしんどさもよく理解しているけれど、それでもなぜか羨ましくて、しばらくそちらの方を見てしまった。そのときベンチに座っていた一人の男性が、キム・ジヨン氏をじろっと見て、仲間に何か言った。正確には聞き取れなかったが、途切れ途切れの会話が聞こえてきた。
俺も旦那の稼ぎでコーヒー飲んでぶらぶらしたいよなぁ…ママ虫(害虫のような母親というネットスラング)もいいご身分だよな…韓国の女なんかと結婚するもんじゃないぜ…。
しんどいのは分かっていつつも、羨望の目を向けてしまうキム・ジヨンの悲哀が感じられる一節。それだけではなく、いわれもない非難を浴びてしまうところがアンハッピーすぎる。
それに対してキム・ジヨン。
あのコーヒー、1500ウォンだよ。あの人たちも同じコーヒー飲んでたんだから、いくらだか知ってるはずよ。私は1500ウォンのコーヒー一杯も飲む資格がないの?ううん、1500ウォンじゃなくたって、1500万ウォンだって同じだよね。私の夫が稼いだお金で私が何を買おうと、そんなのうちの問題でしょ?私があなたのお金を盗んだわけでもないのに。死ぬほど痛い思いをして赤ちゃんを産んで、私の生活も、仕事も、夢も捨てて、自分の人生や私自身のことはほったらかしで子どもを育ててるのに、虫だって。害虫なんだって。私、どうすればいい?
まったくもって正論である。
ネットでは最近、男女の分断を深めるような記事・投稿が多いように感じる。
30歳過ぎた女は売れ残りw
独身の男とか惨めすぎるw
的な。あんなもんアクセス数(≒金)が稼げるから取り上げてるようなもので、間違ってもそんな誤情報・印象操作によって踊らされず、偏った見方・根拠のない差別的な考えをしないように意識したいところではあるが、この前読んだ「スマホ脳」という本には匿名性に人間の脳は追いついていない、という研究結果が示されていた。
よく考えもせずにネットで差別的な投稿を見ていると、いつの間にか自分も差別的な発言を日常生活でも使ってしまうのかもしれない。
【スマホ依存対策に!】iDiskkのタイムロッキングコンテナ効果的でおすすめ
知らない内に、さらなる分断・嫌悪が増長されているのかもしれないので、僕たちも気を付けなければいけないとなぁ、と思った。
82年生まれ、キムジヨン
読書レビュー
- 女性の境遇について考えられた
良い本、というのが「82年生まれ、キム・ジヨン」を読んでみての読評。恥ずかしい話、僕は男女差についてはよく考えてこなかった。生物的な役割として女性は子供を産み、育てるのが自然、的な意見に与していたけど、色々な多様化する現代においては暴力的、いや原始的な考えかもしれない。
作品では女性の境遇への理解を促すとともに、歪んだ男女間についても考え直させてくれる。「82年生まれ、キム・ジヨン」は韓国社会での話であるが、割とマジで日本でも男女の分断は進行していると思う。
「サターンリターン」という漫画の連載時、上のコマが出た話では割と多い男性(と見られる)方の肯定的なコメントがあった。少し同調してしまった自分がいたのも正直なところだ。
ジェンダーギャップにはまだ考えがまとまらない。
しかし「82年生まれ、キム・ジヨン」が流行るというくらいには、性差や社会構造・因習によって苦しんでいる人が未だにいる、という点をつまびらきにされているので、男性に特におすすめだ。僕は別に男女平等とかフェミニズムとかにはそこまで興味はない(当面は日々を生きる方に余力を割く必要があるため)疎いが、男女間の問題について「差別・区別・事実」混同して考えないように意識するためには当作品が非常に参考になりました。
以上!
気になった方は是非!