【今しか読めない?】『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』の書評・名文まとめ

読み心地が最悪すぎる

と評判だった「この部屋から東京タワーは永遠に見えない」。傍から見れば十分に幸せな人間が、無意味な競争や空虚な成功に妄執し、どんどん不幸せになっていくストーリーの連続。超かんたんに言うと そんな感じ。

 

漠然と東京に憧れる気持ち。とっても分かる。

ドラマから歌まで魅力的な作品に組み込まれる「東京」。そりゃ高卒時の僕のようにフラフラと、街路灯に集まる羽虫のように東京を目指しちゃうよな。

 

 

たぶん先生は、自分が特別な人間だと思っていたのです。東京で生まれた人が東京でなんとなく生きるのとは難易度の違う人生を、先生は自分の努力と能力で生き抜いたのだと、自分の力で東京に辿り着いたのだと思っていたのです。先生にとって東京は特別な場所でした。自分の特別な価値を証明してくれる、特別な場所。

そして先生は東京から転落しました。先生には特別な価値なんてものはなくて、ただ人を見下し、それていて見下し続けるための努力もせず、すぐにその薄っぺらい自信をひっくり返されて、今度は地面に這いつくばった自分が見下され笑われることの繰り返しで構成される惨めな人生だけが残りました。

引用:3年4組のみんなに

「この部屋から東京タワーは永遠に見えない」では上のように、シビアすぎる現実を流麗な文章で書き紡いだショートストーリー集がである。

 

 

というワケで、今回は「この部屋から東京タワーは永遠に見えない」という本について。あ、記事本文では随所にネタバレや本文の引用もあるので、気になる方はここらでブラウザバックしてね。

 

 

 

 

「この部屋から東京タワーは永遠に見えない」
面白かったポイント

東京に来なかったほうが幸せだった?
Twitterで凄まじい反響を呼んだ、虚無と諦念のショートストーリー集。

「3年4組のみんな、高校卒業おめでとう。最後に先生から話をします。大型チェーン店と閉塞感のほかに何もない国道沿いのこの街を捨てて東京に出て、早稲田大学の教育学部からメーカーに入って、僻地の工場勤務でうつになって、かつて唾を吐きかけたこの街に逃げるように戻ってきた先生の、あまりに惨めな人生の話をします。」(「3年4組のみんなへ」より)

引用:集英社「この部屋から東京タワーは永遠に見えない」

 

あ、「3年4組のみんなへ」については以下のリンクから無料で読めます。

1600円…
今月はキツイから迷う…

という方はお試しで読んでみてくださいませ。

 

 

原作では一作目のストーリーということからも分かる通り、本作の中でも屈指の名作っぷりだ。「3年4組のみんなへ」はハマらなければもう本書は読まなくていい。ずっとこんな感じで、格キャラごとの地獄、自身の性格の悪さから生じたアレコレによって陥る精神的底辺状態を描いているよ。

 

 

20代~30代前半の男女に超おすすめ!

活字とか、あんま読まないけど…

という人、とくに若い人こそ読んでほしい

色々あって東京に流れ着き、学歴や年収、容姿やブランド服、知り合いでもないヤツのSNS自慢で感じる必要のない不幸・不満を抱いている20代~30代は読んどいたほうが良い。本書では反面教師みたいな、お手本のような「現代人の抱えがちな不幸」を体験する若者たちが登場する。

 

いっそ、勉強もできなければ気が楽だったんじゃないかと思う。最初から無価値な人間であれば、だれからも注目に値しない人間であれば、あんな惨めな気分にはならなかったんじゃないか。

惨めさとはつまり高低差で、浮かれた気分で登ったステージでヘマをするから惨めになる

完全な人間か、完全に不完全な人間。どんな不幸な形でもいいから、調和がそこにあることが、幸福へと続くただ一本の道。

引用:2802号室

 

本書では上のような感じで、読んでいて胸クソが悪くなる文章のオンパレードだった。他人との比較なんかで人生を無意味に辛くして転落的人生を歩んでしまう感じが嫌にリアルだった。

 

年齢によっては、

そんな時代もあったなぁ…わけぇなぁ…

と他人事に感じられるかもしれない。

だからこそ20代から30代の人にこそ読んでほしい

今だからこそ胸に刺さり、考えを改めることができる読む精神薬(即効性あり)だと思って読んでほしい。僕は非常に、こう、胸にズーンと来ました……。思い当たる節が何度もありました…。

 

 

「不幸」の原因を探すのが上手い登場人物たち

登場人物は頭が良い人物が多い

なにか不幸せなことがあったり、予想していた結果にならなかったときに「頭が悪いから」と言い出すキャラが多かった気がするが学力は勿論のこと、知性や教養、一般常識などは十分な方だ。

 

幸せの定義とか、そこに至るまでの道のりなんて、たぶん死ぬまで分からない。姉と違って頭の悪い私は、とにかく走って、転んだらまた起きて走り続けるしかないんだと思います。

引用:青山のアクアパッツァ

 

だけど、不幸せな人物が多い。

これは多分、不幸せを見つける才能があったんだと思う。良く言えば繊細。いま、自分が不幸せな原因を探り、分析し、原因が過去にあったのでは?なんて考えてしまうのは逃避的だが、一見 筋が通っているように理論武装しているキャラが多かった。当然ながら過去は変えられない。より一層、不毛に悩むことに繋がってしまうだけだ。

 

アメリカの神学者が「変えられるものを変える勇気を、変えられないものを受け入れる冷静さを、そして両者を識別する知恵を与えたまえ」と言っていた。なんとなく、「この部屋から東京タワーは永遠に見えない」を読んでいて思い出した。

 

 

他人を競争し、見下すための「幸せ」?

「不幸せ」、ひいては「幸せ」とは何か?

と問われたときに、単純で分かりやすいのが

他人と比較すること

だと思う。偏差値の良い大学を出て、就職難易度の高い企業で働き、世代平均年収よりも多く稼ぎ、ブランドの服を着て、見た目の良い異性と交際する。そんな「分かりやすい成功」と「幸せ」をイコールで結ぶことによって「不幸せ」が発生しているように感じた。

 

可変性のある現代においては価値基準の判断が分かりにくくなる。そんなときに、他人との比較によって生まれる「差」に執着し、そこで「勝った」と思い間違うことで後々に自分の首を絞めることに繋がっていた。

 

「他人との比較」は誰にでも簡単にできる。子供だってできる。しかし、そんな「分かりやすい幸せ」に飛びつき、エンドレスな幸せ競争に巻き込まれ、疲弊してしまう登場人物が多かった。

 

 

 

空回りする努力「何者かになりたい」

ネットなんかで誰もが有名になれる時代になった。

そこらへんにいるようなバカっぽい大学生でさえインフルエンサー(笑)になれたり、スーパーで魚の切り身を食っただけで有名になって、好き勝手に生きている人間が出る始末。そんな時代だからこそ

特別な人間になれない…
自分には才能や努力が足りないのか…?

と思い悩んでしまう。僕の周りでは小学校のときに足が速かったり容姿が良かったりした人ほど水商売をやって肝臓を壊したり、アムウェイして順調に友達を減らしてる。子供の頃に目立っていた人達なんかが成長することによって''特別さ''が失われていくように感じるのかしらん?

 

駅前の本屋さんで買った宣伝会議3月号。コンテストの一次審査通過者リストの中に、僕の名前はなかった。僕の中のどこかに眠ると信じた才能。マンガも、音楽も、広告も、何にでも手を出して、何も成し遂げられなくて、何者にもなれずただ汚くて臭いおじさんになってゆくだけの長い長い人生が、僕の目の前に横たわっていた。

引用:僕の才能

「他の人より成功したい」

「誰とも違う人になりたい」

という呪縛によって苦しむキャラもいた。

特別な人になりたい…!

と思い、誰よりも周りを気にして自分の人生を生きられない虚しさ。ほろ苦いかもしれないけど、普通の自分とも折り合いをつけ、それでも前を向く難しさが必要なのかもしれない。

 

 

 

マンガもあるけど…

活字版の方が圧倒的におすすめ

です。僕が原作から読んだから一層そう思うのかもしれんが、マンガ版はちょっとコミカライズの制約を受けすぎてる気がする。あれだけ重苦しく醜い虚栄心や嫉妬心が入り混じった話がマンガだと1~2話完結って…、そりゃ情報量が欠けるでしょ。せっかく雰囲気のある絵も描けるんだから、もっと自由に、たくさん話数を使ってほしかった。

 

原作とはストーリー自体は一緒だ。

絵があるからこそ滲み出る生々しさもあるんだけど…

 

なんつーかこう、分かりやすすぎる

心の痛さや醜さは文字で、文字だけで表現することによって、読んだ人の中で最大限に膨らむのかもしれない。文章でしかできない、心にグッとくる辛さを書いているのが原作だ。上のシーンだけ切り取っても、

相変わらずリスみたいなかわいい顔や女子高生ブランドに惹かれて寄ってきた、さえない中年がその数字を支えているようでした。それでもものすごい数字です。3万人の勃起したおじさんが立ち並ぶ光景を想像しました。

引用:ウユニ塩湖で人生変わった(笑)

という具合。

 

マンガ版も面白い。んだけど、やっぱり原作の緻密な情景模写・おびただしい固有名詞は圧倒的だ。マンガのページ的制約も厳しいのか展開が早すぎる感が否めない。情報がかなり削られていた印象が強かった。

 

絵にも文字にも得意不得意がある。視覚以外から得られる情報で想像がブワッと広がって最悪な読み心地になるのが原作だ。とはいえまだ9話しか連載してないので、これから一層面白くなるのかも。僕は正直もう連載が追わないけど、完結して単行本が出たら購入して読み返してみようと思う。

 

(マンガ版)

 

 

「この部屋から東京タワーは永遠に見えない」
グッときた文章

「この部屋から東京タワーは永遠に見えない」を読んでみて「うわぁ」と思った部分や、「うへぇ」と感じた一節を備忘録として抜き出しておく。多くなり過ぎたので数を減らしたが、少しでも気になるフレーズがあれば是非、本編を読んでね。

 

 

逃げることを諦めた動物園の猿のように

この街の人生に上昇も下降もありません。この背の低い灰色の街のそのまっ平らな稜線のように。なんとなく生まれ、なんとなく大学は出て、なんとなく就職して、なんとなく結婚して、なんとなく子どもを産んで、なんとなく家を買って──逃げることを諦めた動物園の猿のように、この街の人々はなんとなく生きている。当時の先生の目にはそう映りました。

引用:3年4組のみんなに

こんなふうに思っていた時代も僕にもあった。というか、なんだったら去年の年末、同窓会でガキのころからクラスのリーダー格、ノリが良くて先生に気に入られ、バスケ部のキャプテンでいっつも偉そうにしてて超苦手だった竹○君に会って、相変わらずだったときとか思ったよ。本気でそう思っている、というより自分の価値観を守るために地元を全否定するという貧しい考えが詰まっているんだよ。

 

 

幸せに至る一本の平坦な道

私が愛した彼のダサさは、奥さんがこの街で安く手に入れた品々で完全に拭い去られ、彼はそれと引き換えに、この街の代替可能な無数の部品のひとつとして、この街で大量製造されるキャンベル間みたいな幸せを啜っているように見えました。選ぶことを放棄した者たちが歩む、幸せに至る一本の平坦な道。

引用:30歳まで独身だったら結婚しよ

正直、男主体の話は共感できる部分もあったので面白かった。ただ女主体の話は読み返すのがイヤなくらい、じめじめとした嫉妬が赤裸々に書かれててしんどかった。

 

 

何歳になっても多摩の香り

今年で30歳になります。今日は中央大卒の保険会社勤務とアポでした。なんで中央大卒って何歳になってもあんな感じなんですかね。何歳になっても多摩の香りがしますし、もう飽きました。やっぱり東大卒か、後最近は一橋卒にハマっています。

引用:森から飛び出したウサギ

マッチングアプリで出会う男性を年齢や外見でもなく、出身大学と勤務会社で判断する女性が主役の「森から飛び出したウサギ」もすごかった。上の一節と、「貴重な土日をブスに費やした穴埋めを射精で取り返そうとする男」みたいな恐ろしく鋭利な言葉も飛び出してギョッとした。

 

エノテカで買ったルイ・ロデール、安いスプマンテ、

などなど、男には正直 ピンと来ない固有名詞も圧倒的なので、是非 本編で読んでほしい。

 

 

彼は努力の天才だった

よく慶應に入れたな、と思った。訳はすぐに分かった。彼はおそろしく真面目だった。毎日毎日、閉館時間まで図書館に籠った。すごい量の文献を読んだ。先生を捕まえて何時間でも質問をした。成果が努力の量と効率性の掛け算だとしたら、彼は努力の天才だった。宇宙望遠鏡的な努力に、電子顕微鏡的な効率性を掛け合わせて、彼はどうにか入試を突破したらしかった。

引用:真面目な真也君の話

 

 

努力のぬるま湯

彼はどうも、頑張ることに逃げているらしいと気付いた。どうも昔からそうだった気がしてきた。努力のぬるま湯に、手を動かしていることのぬるま湯に首まで浸かっていれば、湯気で先の不安が見えなくて済む。彼は昔からそうして逃げているらしかった。彼は真面目なわけではなく、人生に対してひどく不真面目で、その不都合な事実から目を逸らすために、子どもがお母さんに怒られているときに手遊びするように、努力に逃げているらしかった。

引用:真面目な真也君の話

 

 

いっつも惨めな気持ちでした

そんな彼らを見ながら、成績未達で上司に日々詰められるんはどんな気持ちやと思いますか?ただ道を歩くだけで、六本木の高級ステーキ屋さんから出てくる半ズボンの大学生みたいな若者たちを見てしまい、そこに辿り着かへん俺の無能を自覚し、自分を責めてしまうんです。いっつも惨めな気持ちでした。

引用:大阪から

 

 

大阪にはマウンティングの文化がないと言う人がいます。確かに自虐のほうが笑いが取れるし、笑いが最も重んじられます。でも、もしかすると、大阪には「自分の力で圧倒的に成功した人」が少なかったんかもしれません。マウンティングとは、何かを見て勝手に自分が惨めに感じる心の動きなんですから。

引用:大阪から

「大阪へ」と「大阪から」

は割と後味が良かった気がする。

 

 

人に唆されて、自分に期待しちゃったりして

やっと本当の自分に戻れるんだな、と変な安心感が湧きます。これまでがおかしかったのです。

人に唆されて、自分に期待しちゃったりして、不相応なステージに上がって、そして自分の無能ゆえにそこから転げ落ちていくつまり親の誤りを再生産したわけです。親不孝な息子でしょう。「次は三島です」。でもそれは転落なんかではなく、実のところ、元いた場所に戻るだけなのです。

引用:Wakatteをクローズします

 

 

その人だけの見えない地獄がある

東京に出た先生に不幸があったように、地元に残り、駅前のマックで怪盗ロワイヤルの話をしながらジュースの氷を噛んでいた同級生たちにも不幸があったかもしれません。もしかすると袴をはいたヤンキーたちにも。もしかすると君たち自身にも。すべての人には、その人だけの見えない地獄があるものです

人の不幸を想像できる人になってください。先生はこんなこと言える立場にありません。先生はそれができなくて、自分だけが苦しい人生を歩んでいて、人を見下す権利があると思っていたクソ野郎だからです。でも、それでも言いたいのです。母が母なりに私の未来を重い、ビートルズを聴かせたように。

引用:3年4組のみんなに

 

多すぎるのでやめやめ。

あとは本編で読んでね。

思わず書き出したくなるほど、気持ち良いくらい醜い心情を吐露った文章ばっかりだったぞ。

 

 

 

総括:「この部屋から東京タワーは永遠に見えない」
読書レビュー

読み心地は最悪だけど、勉強になった

「この部屋から東京タワーは永遠に見えない」だった。もちろん東京に住んでる人は本作品のような生き苦しんでる人ばかりではない。あくまで東大・一橋落ち早慶卒みたいな分かりやすい「優等生だけど負い目のある」30歳前後の男女が、虚栄心や嫉妬心に振り回されたりして気が滅入る話を書いている本作だ。

 

基本的に自分に自信がなく、それを察知させないように誰かを見下し、それを周囲に察知されて浮いたり仲間外れにされて心を削られていくとっても不細工。ただ、これを他人事だと切り捨てられる人も少ないと思う。誰でも、とくに勢いで東京に来た人は30手前になって「自分が何も達成できてない」という焦燥を抱えがちだ。

 

実際 アラサーでこんなブログを運営してる筆者としては、読み心地は最悪に感じるくらい、心を突き刺すストーリーが多かった。それだけに「こうはなりたくない…!」と恐ろしくなり、もっと色々な本を読んで知見を深めたいと思った。自分の知らない時代、見知らぬ誰かの後ろ姿に触れられる読書は、現代のような不安の多い時代を生き抜く糧になるはずだ。

 

 

幸せの形はひとつじゃない。なんて、そんなことは口にではすぐ言える。彼女自身も、地元の街で吸い込んで育ったルッキズムや前時代的な価値観が肺に染み込んで離れないことを知っている。彼女は彼女で、他の人が望んでも手にすることのできなかった、ある種の幸せをすでに手にしているのだから。

引用:吾輩はココちゃんである

なんとなく手に取った良寛歌集

よくければ一切いっさいり もとむるらばばんきゅう

と書いてあった。

現代は、幸福を掴もうとする気持ちが逸ってしまっているのかもしれないね。

 

 

 

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