浅野いにお、という漫画家がいる。鬼才だの天才だの様々な称号をほしいままにしては若い女の声援を浴びて童貞拗らせ系読者からは目の敵にされているような漫画家である。実際にちゃんと童貞拗らせた僕としても仲良くなった女子の部屋に浅野いにおのマンガがあったら何となく残念な気持ちになる。そんな漫画家だ。
Googleのサジェストを見てみると
みたいな感じになっている。さっきは『若い女』と言葉を濁したが、そういうことだよ。浅野いにおのマンガはサブカル系メンヘラ女の大好物。うん、非常に分かる。漫画に出てくる女は結構な割合でダメ男(無職orバンドマンor無職かつバンドマン)と付き合ってるしな。ちなみに浅野の出身大学は玉川大学だ。
僕も『ソラニン』やら『おやすみプンプン』なんかの有名どころは見た。面白かった。が、話や雰囲気が鬱々しくって読んだ後どっと疲れたんだよ。面白いんだけど読み返すのは勇気いるような感じ。鬱描写・救いがない話とかが好きな人達にはえげつないくらい私生活に影響を与える漫画をよく描くんだ浅野は。右も左も分からない中坊とかに見せたらやけに達観した冷めた大人に育ちそうだ。時代によっては焚書である。
そんな浅野いにおのマンガなんだけど、この前Amazonをぼけぇ~っと見てたら「素晴らしい世界」っていう、いにおの初連載作が目に入ってね。今でこそGoogleサジェストの2件目に「メンヘラ」ってきてるような浅野いにおだけど、初期はどんな感じのマンガを描いていたのか気になり購入に踏み切ったわけです。
で、実際に読んでみるとね、、
……………。
今回はそんな浅野いにおの「素晴らしい世界」についてまとめてみるよ。
素晴らしい世界
先述したように「素晴らしい世界」は浅野いにおの初連載作品である。Amazonの作品紹介欄には
戸川ゆり子、23歳。大学の音楽サークルで、バンドのボーカルとギターを担当している。カラッとした性格の彼女は、後輩の男の子たちに慕われる人気者。だがその頼られまくりの状況がイヤになり、あっさり大学を辞めてしまった。かといって、その後の生活のあてはない。半年後、久しぶりに出掛けた商店街のライブハウスはつぶれており、そこで偶然再会した以前のバンド仲間・藤井も金髪・ツンツンのパンクヘアーを、ごく普通の髪形にして就職活動をしていた。さらにアパートに~~(省略)
って感じで紹介されているがこんなストーリーで漫画が進行していくわけではないので注意。決してバンド漫画ではない。いにおは『現在に不安・焦燥を抱える若者』としてバンドマンを描くことが多い。実際そうなのかもしらん
素晴らしい世界は各話 繋がりはある者の作中で明確に主人公って定義できるキャラはおらず、基本的に1話完結。各々のキャラの「現実」を描いている。
ただ、現実の描き方が浅野いにおだよ。原点が「素晴らしき世界」にあるってんならやっぱりこの人の世界観は鬱々しくってノスタルジックなんだと思う。メンヘラが読めばメンヘラ度が磨きあがるし、そうじゃない人が読んだらメンヘラになりかねないメンヘラ指南書。間違っても中高生には流布しないように。社会人として片手で数えられる年数を過ごした僕が読んでいてもメンがヘラっていく感覚がゾワゾワあった。
ただ賛否が分かれているようで、合う人には『サブカルの聖書』とか『儚い希望を感じた』なんて高評価されるくらい合うし、ハマらない人にはまったくハマらないどころか高評価をしている人を「サブカルクソ共御用達」とか「趣味が『写真・カメラ・カフェ』とか書いてるバカ共が好きそう」と揶揄するほど合わない模様。同じ作品を読んでこうだもの争いはなくならないね。
それにしてもこの意見の割れよう、なんか同じような作品を読んだことがあるぞ……
「ライ麦畑でつかまえて」的な要素
「ライ麦畑でつかまえて(The Catcher in the RyeThe Catcher in the RyeThe Catcher in the RyeThe Catcher in the Rye)」という有名な小説がある。J・D・サリンジャーって人が1951年に出版した本なんだが昨今に至るまで本屋に並ぶベストセラーだ。思春期真っ最中の主人公を描いた作品だが、読んだ時期によって本の評価が分かれることで有名。青春時代に読んだ人からは『至高の10代小説』と高評価、それ以外の人達からは「なんなんだこのクソ小説は?なんでこんな中二病の愚痴を延々と聞かされなきゃならんのだマザーファッカー?」と超低評価。そんな「ライ麦畑でつかまえて」と同じような読み心地を感じたのが浅野いにおの「素晴らしい世界」だった。
両作品には「共鳴できる年齢・精神性」が存在すると思う。『ライ麦畑でつかまえて』は10代の頃に読むのがベストと言われているように、素晴らしい世界にも社会への漠然とした不満を感じられている精神性があるヤツが読むとグッとくると思う。大人になりきれてない奴の方が『素晴らしい世界』にハマるだろう。
人間良くも悪くも年を取っていけば自分の考え方がつくようで、社会人になって長い人とか精神的に丸くなった人が読んでも『なんだこの薄っぺらいマンガはマザーファッカー?』ってなるように思う。たしかに薄っぺらくも思うけど、誰でもどうでもいいような悩みで右往左往する時期はあったと思うんだけどな。
空っぽの人達にクリティカルヒット
少なくとも僕はクリティカルヒットだったよ。
『素晴らしい世界』は浅野いにおが執筆当時23歳くらいということもあってか、世の中に蔓延する「どうしようもないけど現実」なことの描写が多い。というか浅野自身 どうしようもないコトを見つけるのが超上手だ。女子中学生は売春してるし、ヤンキーはホームレスをボコボコに殴りまわす。女子高生は親と同い年くらいの先生と不倫してるし、予備校生達は勉強もしないで酒を飲む。みたいなホント、どうしようもないことを見つけるし、それをマンガにしやがる。そんなことだから僕は浅野いにおのマンガは本棚に置きたくないんだよ、ふと読み返した時に鬱にさせられちゃかなわん
ってわけでナイーブな読み手の僕としては読んでいて疲れた。キャラの顔も
みたいな感じで既視感を覚えるものがあり、浅野いにおのワールドに引き込まれそうになる。こんな感じの女 日本に2万人くらいいるだろ。
さっきは『社会に不満を持っている人には合う』って言ったけど、特に熱中することも何もなく、ただぼけぇ~っと生活している人にもヒットすると思う。運が良ければ君もメンヘラの仲間だ。ウェルカム、一緒にロヒプノール飲もう。病歴の話で花咲かせようぜ。
この世はどうしようもないことで一杯。
それでも生きていれば
幸せ、らしい。
生きていればきっと、いつかどこかでいいことがある、っていうフレーズがある。普通に人生を歩んでいれば挫折と後悔の連続で「耳触りの良いこと言ってんじゃねぇ」って考えになるけど、「幸せ」とか「いいコト」っていうのはどうも小さな気付きらしい。
って感じで浅野いにお『素晴らしい世界』についてでした。いにおらしく、終始何とも言えない、あえて便宜的に言い換えるなら「鬱々しい」話の連続で堪えた。初期からメンヘラウケしそうな漫画描いてたわ。記事書く上で読み返してたんだけど、18話「春風」読んでたら不意に泣きそうになった。
先述したように、『素晴らしい世界』は読者の読む時期・精神年齢とかによって評価の変わる、と思う。これを見て
- 読了後 どんより気持ちが沈んだり焦ったり、やんわり明るい気持ちになったら思春期~青年期。
- 『はっ下らねぇな』って鼻で笑えたり本気で何が面白いか分からないと感じたなら大人。
- 和んだり、懐かしみを感じたら同じような青春を過ごした訳アリの大人。
みたいなカテゴライズに分類できると思うんだけど、どうだろうか? 僕は普通に落ち込んだし、焦燥と不安を感じてやるせないので聴く抗うつ薬ことマキシマムザホルモンでも聞いてくるわ。訳アリの大人の人はDM送ってきてくれ。やるせない。
なおったわ。
みんなもあんまり影響受け過ぎないようにね。ってことでメンヘラ製造人 浅野いにおの初連載本「素晴らしい世界」についてでした。
それでは