昔、知人が
と言っていた。なんかしら対価を払った方が人間 気持ちよくなったりするもんなのでしょうか。え?破滅願望って言うんですか??まぁ、そんな理屈でか僕はサクサクと読み進められる漫画よりは、読んでいて体力やら精神力を削り取られるような漫画が大好き。
で、今回紹介するのはギャグ&鬱ジャンルに努力値を振り切ったような漫画家 古谷実の『わにとかげきす』。夜警をしている孤独な30代の男が四苦八苦する姿を描いた異作&名作である。ちなみにタイトルの由来は深海魚ワニトカゲキスから。
深海魚のように孤独な男が、光を求めて深海から浮上しようとするが…
不思議な空間があり
そこに僕たったひとり
もくじ
ネタバレ・画バレ含む
漫画《わにとかげきす》 概要
あらすじ
主人公は、富岡ゆうじ。
東京郊外のスーパーの夜警(夜間警備員)として働く男。
御年32歳。フォークダンスでは女子から手をつなぐのを拒絶されるような外見。彼女は勿論できたこともなければ、友達すらいない孤独な富岡。しかし別に孤独を愛してるわけでもなく、また本人に致命的な欠陥があるわけでもなく、
……
何も考えてこなかっただけ。
人生にとって重要な時期を寝て過ごし、困難という困難を避けてきた男が富岡である。
しかし、孤独を罪のように考え始めている様子。
さらには、その罪を償いたいとすら思えてきたらしく…
乙女のように流れ星に願ったのは『友達』。
己を懺悔して他者を渇望する富岡だったが……
というのが大体の概要。
ここまでで興味を惹かれた方は是非 本編を読んでみてね。予想・期待を遥かに凌駕する面白さの《わにとかげきす》だよ。
全4巻なのに、とんでもない密度
漫画『わにとかげきす』の面白さ
- 富岡と同じような境遇
- それに近しい20代後半の男
に超絶おすすめしたいのが《わにとかげきす》である。日常と隣り合わせにいる非日常のコワさがヤバい。肝っ玉がデカい(脳ミソは小さい)知人ですら、
と恐々としてたからして、実生活に影響を及ぼすようなインパクトの強い漫画『わにとかげきす』である。
以降、時間の許す限り魅力・見所を語っていくので読み渋っている方は参考にしてね。
不器用ながらも人情味(?)がある主人公
32歳の孤独な男が主人公
ということで自身に重ねる読者層はかなり限られそうだ。しかし、不器用にながらも優しい(?)という魅力があり、そんな主人公が七転八倒しながらも頑張っていく姿に共感させられたりする。
…
あまりにも社会人として未成熟なままの主人公が必死に『変わろう』とする姿がエモーショナルで面白い。というか共感できすぎて『僕もこうなるのでは…?』と不安になってくる。
誰にでも優しい
というか、自分がどういう人間か分かっていないのでは?と思わせるような不安定加減(30代なのに…!)も絶妙。ひょんなことから遭遇したホームレス。普通の人間なら『コイツとは関わるべきじゃない!』と思うような相手であっても、
そこは富岡の寂しさ(?)が勝ったようで、なんとホームレスの面倒を見たりする。身なりを整えるどころか焼肉を奢ったりと、人生の混乱っぷりがスゴイ。
実はすごい人…
ということは一切なく、骨の髄までホームレス男。
友達は欲しい富岡だったが、思わぬところでとんでもなく頭の悪いオジサンを拾ってしまうエピソードも見所だ。『もっとフレッシュな友達が欲しい…』と祈り直すが、疫病神のように厄介ごとを運んでくるホームレスで…
32歳コミュ障・不細工を好きになってくれる美女
コミュ障&不細工な主人公だが、ひょんなことからスタイル抜群の美人に好かれる。
「たまたま数日前に引っ越してた美人でグラマーな隣人がブサイクな主人公に一目惚れする」という超ご都合主義&メルヘンSF展開、に感じる読者もいるかもしれないが、追及するのが野暮。ここで引っかかるヤツはもう古谷実の漫画を読まない方がいいレベル。
で、気になる羽田さんだが、
富岡を好きになった理由は顔。
昔から『トランプのジョーカー』に似てる男がタイプという凶悪な美的センスが光る羽田さん。
人間関係の構築が超絶苦手、そもそも女性と付き合ったこともない富岡は『何か裏があるのでは…?』と疑ったりするが……
変化する・してしまうキャラクター達
『自分を変えたい』
『アイツは変わってしまった』
と変わるコトには一概に善悪が分けられない。主人公は今までの怠惰、それに付随した孤独を懺悔して改めようと奮闘するけど、結果的にとんでもないことに巻き込まれる。生命の危機に追いやられたりする。
また、変わってしまうのは主人公だけではない。
…
主人公以外のキャラクター達も様々な願望・欲望に駆られて豹変してしまう様がとんでもなくリアルに描写されているのも漫画『わにとかげきす』の面白さだと思う。好きな子を助けたい、という一見 純粋で報われるべき願いであっても最悪な結果になるような残酷な現実が描かれる。
…
孤独なことを『毒』と思い詰め、変化を求める富岡。
しかし、『毒』は『薬』にもなり得ることを考えたキャラクターも現れたりする。一見『生きてて面白いのか?』と思わせられるようなキャラでも独特の理論武装をしているのが興味深い。
軽快なギャグと恐ろしい…
独特のワードセンスと現在なら発禁間違いナシのノーモラルなギャグが冴えわたっている《わにとかげきす》。アホな登場人物たちの無茶苦茶なやり取りによって割とサクサク読み進められる。
で、なんてことない日常を満喫してるときに、
目を背けたくなるようなドギツイ現実を直視させられるといった塩梅。この辺の古谷実作品に出てくるヤクザのコワさ。実際ヤクザに何かされたんか古谷実は…?ヤクザと一切関わりのない僕ですら読了後に『おれ借金とかなくて良かった…』と泣きながら安堵させられるような恐ろしさ。ハンパじゃない。
あくまで人間が引き起こす最悪な出来事を、切羽詰まった状況を、この上なくリアルに堪能できるという意味では古谷実の《わにとかげきす》は漫画という垣根を超えた芸術レベルの作品だと思う。
先の読めない展開を楽しみたい貴方に是非。
総括:漫画《わにとかげきす》
以上、ホラー作品として紹介していいのか日常作品として紹介していいのか最後まで分からなかった《わにとかげきす》でした。
結局、作者が何を伝えたかったのかすら分からなかった。
描きたいものを描いただけなのかもしれないが、一応 胸に残ったのは
…
…
寄り添ってくれる人の大切さ、有難さ。
作中でゲーテの代表作ファウストが引用される。賢者と呼ばれるような老人が『結局オレはなんにも分かってなかった…』と絶望し、悪魔に魂を売って若い美女とヤリまくったりする長編劇曲。結局、その老人がどうなったかというと…、《わにとかげきす》の最後のような塩梅に繋がる(のかもしらん)。
少しでも気になった方は是非。
全4巻という短さで、超重いノンフィクション映画にも負けず劣らずな傑作漫画の一つだよ。
期待しよう、明るい未来…
こちらも読まれてます