社会人の皆さん、ごきげんよう。今日も骨身を削っての滅私奉公 お疲れ様です。自宅待機で悶々とした人々の鬱憤が高まっている中、自粛があまり苦にならない生来の社会交流の少なさに悲しみと焦り感じるようになってきた井家と申します。えっ?!私の生活 変わってなさすぎ?!
そんな代わり映えしない生活を送っていると刺激が欲しくなるようで、最近はエログロとか胸糞悪い系の話の売り上げが良いとBOOKOFFに勤める友人から聞きました。善悪の花って漫画が滅茶苦茶売れて在庫がなくなったそうです。
が、味付けの濃い漫画ばっかり読んでいると疲れてくるのも事実。ウシジマくんを全巻ぶっ通して読んだ日にゃ誰とも会いたくなくなるってもの。
そんなあなたにおススメしたいのが巨匠 石黒正数の日常ショートギャグ漫画の傑作、週刊少年チャンピオンという競争率の高い漫画雑誌で10年以上も連載している『木曜日のフルット』。疲れた人が頭空っぽでも読めるが、トンチも効いている完成度の高い漫画だ。
木曜日のフルット
あらすじ、といっても日常モノなのでこれといった筋立ったストーリーはない。簡単に言うと鯨井サナっていう無職とフルットという半野生のオス猫を中心とした日常ショートギャグって感じ。まずはメインの一人と一匹を紹介させていただく。
主人公の鯨井サナ。石黒定番のセミショートヘアーとつり目が特徴的。フルットによくエサをやり、たまには部屋の中に連れ込んで暖房具の代わりなんかにもしてるが正式にペットとして飼っているわけではない(ちなみに下宿先のアパートはペット禁止)。女子大卒だが定職に就かずギャンブルばかりしている駄目人間。
が、生活能力は高く小器用な面があり、悪知恵も良く思いつくが両津勘吉的発想(巧妙な詐欺)が多く、後輩に止められている。
もう一匹の主人公のフルット。白で灰色の縞模様があるオス猫。アウトローなノラネコの矜持を持ってはいるものの、鯨井に定期的にエサを貰うなど、ノラなのか飼い猫なのか微妙な状況。
元々はペットショップで売られていたが、自由な生活を求めて逃亡。しかし現実はあまりにもフルットには厳しかったらしく、行き倒れていたところを鯨井に助けられる。「フルット」という名は、その時フルフル震えていたのを見た鯨井が思いつきで付けたもの。
最初は(さすがにネコはもっと可愛いく描いたほうがいいだろ…?)って思うようなデザインだったけど読んでいるうちにどんどん可愛く見えてくる不思議。ちなみに一人称は「おれ」。何気にモテる。
以上の一人と一匹を軸とした周囲の日常を描いたのが「木曜日のフルット」。面白い、の一言で片づけるには僕の時間が有り余ってるのでどう面白いのか、解説させてくれ。
可愛らしいキャラ・読みやすい3頭身
個性派揃いの週刊少年チャンピオンの巻末掲載ということもあってかサラっと読める絵柄。元々読みやすかった絵が更に読みやすなり、キャラ達は3頭身にデフォルメされている。で、このキャラクター達が可愛いし面白い。
デフォルメされたキャラでは現実の人間のような微細なパーツの大きさや配置の差異を表現することは難しい。デフォルメキャラが陥りがちな判子絵(どれも同じような絵)にならないように差異を表現するためには描いている側の技術が必要不可欠。で、そこは石黒正数 引き出しの多さがハンパない。
藤子不二雄さながらの安定感ある絵でキャラクターの描き分けは言わずもがな、キュンとするような絵からゾッとするような不気味な絵まで描きこなす。3頭身キャラとは思えないような人間味溢れるイイ表情をする。
他の人も僕同様にグッとくる推しキャラができるようで、フルット等のメインキャラ以外にも「ノミのダニーが可愛い!」、「カラスのマリアのツンデレっぷりがイイ!」やら「カッパちゃんがエロい!」といった様々な意見を聞いた。よく必要最低限な線の少なさで飛んだり跳ねたり、魅力的なキャラが描けるもんだ。
万人ウケする面白さ
思春期だからこそ刺さる作品、大人だからこそしみじみと感じる作品なんかがあるように、その漫画を読む「適齢期」のようなものが存在すると思う。
例えば『金色のガッシュ!!』という作品がある。あったよねゆとり世代諸君。あの作品をいきなり30代40代の大人に読ませたら幼少期の僕達のようにハマッて国語辞典片手に『ザケルガ!!!!!』って、彼らは言うだろうか。間違いなく言わないよね。分厚い本を持ってくれるどころかそもそも読んでくれるかすら怪しいもんだ。
そんな感じで作品ごとにその作品を最も楽しめる時期があると思う。僕が小学生のときに「サンクチュアリ」を読んでも『うわぁなんかエロい絵があるけどワケわからんぞぉ…』以外の感想がなかったように、漫画は読む時期も重要なんだね。
が、木曜日のフルット。そんな僕の考えを覆して全世代を虜にするような面白さ・魅力がある。老若男女楽しめる作品と言っても過言じゃない。主人公が無職とネコという、ゆるふわ系読者以外にはめちゃくちゃつまらなそうな題材だが、そこはやはり石黒正数の書く日常モノ。『軍手の片っぽが道端に落ちているのは何故か?』とかいう素朴な疑問や『人間に媚びない』という野良猫の矜持、貧乏生活の知恵や無職の葛藤だったりと話は多岐にわたって面白い。
(引用:木曜日のフルット⑥ 131ページ)
お気に入りの話が多すぎて決めかねるが、僕は☝のような無職感が強い主人公ネタが好み。キャラ重視のマンガだが、社会風刺ネタも鋭いので普段漫画を読まないような人でも楽しめる面白味もある。
(引用:木曜日のフルット⑤ 154ページ)
2ページでキッチリと面白く、なおかつ何かを伝える。木曜日のフルットには天声人語のような美しさと完成度がある。
毎回「この作品はフィクションですが~」を考えている担当
この漫画(ドラマ)はフィクションです。実在の人物・団体などとは一切 関係ありません。
☝ってあるじゃん。漫画の柱とかに書いてあるアレ。アレって法律でいちいち言わなきゃダメだと決まってるワケとかではないんだけど、常識の通用しない人たちが勘違いしないように自主的に入れることが慣習化されたそうだ。
そんなアレを木曜日のフルットでは毎回 型っ苦しい固定文で書かないで、ひと手間加えて書いてる。こんな感じだ。
カラオケの選曲でギャップを感じるのはジェネレーションですが、この作品はフィクションであり、実在の個人・団体等にはいっさい関係ありませんです~~♪
引用:木曜日のフルット① 12ページ
軽井沢や清里などに多い、フランス語の「年金」が語源の西洋風民宿はペンションですが、この作品はフィクションであり、実在の個人・団体等にはいっさい関係ありません。
引用:木曜日のフルット⑤ 24ページ
吉本のお笑い養成スクール・NSCの正式名称は「ニュースタークリエーション」ですが、この作品はフィクションであり、実在の個人・団体等にはいっさい関係ありません。
引用:木曜日のフルット② 19ページ
普通に「~ション」とつく単語を適当に書いているのかといえば、まぁそういう場合もあり、たまに「なるほど…」と思わず納得するモノもある。スゲェぜ担当。ネタが尽きないのもそうだし、なにより10年以上続けてるのがスゴイわ。
ちなみに木曜日のフルット以外でも「時効警察」っていうドラマで
第一話:くしゃみはハクションですが
第二話:マイケルはジャクソンですが
第三話:二人でするのはつれションですが
第四話:今回の監督はソノ・シォーンですが
みたいな感じでフィクションの注意書きがされてる。なおドラマは2006年に始まって去年2019年にも続編が放送されている名作だ。天才は細部に宿るっていうが、名作は細部にまで遊び心があるもんなのかもね。
まとめ「木曜日のフルット」
読み返すほどに発見があったりして楽しい石黒正数のスルメ漫画だが、今回の木曜日のフルットでも他世界の住人が結構 出てきたりして楽しかった。勿論 他の作品を読んでいない人だって楽しめるし、高い完成度とささやかな笑いを堪能できる素晴らしい漫画だと思う。
唯一 残念なところとしてはもう、週刊連載だけどもページ数が少なく(2ページ)、巻が出るのが遅いってくらいしかないよ。9巻いつ出るんだよ…
ちなみに木曜日のフルット、連載は10周年を迎えて現在のチャンピオンでは弱虫ペダルに次ぐ古参となった(名前が変わったマンガを除く)。長期にわたって連載することで終わり時を見誤ったような某ボクシングマンガ作品なんかもある中、木曜日のフルットは連載開始当初から変わらないどころか更に完成度が高いような話を作っている。巻末マンガながら単行本を購入したのは僕自身、「ピューと吹く!ジャガー」以来だ。木曜日のフルット、みんなに読んでいただきたい最高の日常ショートギャグマンガだ。
ってなわけでウトウト眠たくなってきたので今回はこんなもんでサヨウナラ。春眠暁を覚えず、なんて昔の人はよく言ったもんだ。