【ジェンダー?らしさ?】小説『水を縫う』のネタバレ含む感想と書評・個人的名言まとめ

『~らしさ』という言葉

に違和感を覚えるコトが多くなったとはいえ、現在そこかしこで吐き捨てられ個人を圧迫する「男らしさ」「女らしさ」「親らしさ」。年齢をあげても「いい年して~」という具合である。そんなもんクソどうでも良いわ!、と思っていても唾棄できない心情が各自、あると思う。

 

今回 紹介する小説「水を縫う」では

  • 男なのに、手芸が好きで友達の少ない男子高校生
  • 女なのに、「かわいい」が苦手な女性
  • 親なのに、子どもに手料理を作らないシングルマザー

といった「ふつう」ではない人達が登場する。「ふつう」なんて定義は時代や国、個人間によっても全く異なるのに「ふつう」という概念に縛られ困惑する登場人物たち。

 

固定観念、みたいな社会問題を扱うテーマは読みにくいからなぁ…

という方は超安心して良い。重苦しい雰囲気は少ない。各自がそれぞれ真剣に考えて、気づいていく様が描かれている。普段 あまり小説は読まない筆者でも第1章から目が離せなくなり、1日で読了。スルッとさわやかな読了感。自分は自分で良いんだ、という背中をポンと押される感じはSUPER BEAVERの「らしさ」に近い。

 

 

 

 

 

というワケで、今回は「水を縫う」という本について。

あんまり小説って読まないんだけど…

という方でも興味を持てるように、僕が感じた魅力を全部まとめていく。あ、記事本文では随所にネタバレや本文の引用もあるので、気になる方はここらでブラウザバックしてね。

 

 

 

 

水を縫う
大まかな内容・あらすじ

いま一番届けたい 世の中の〈普通〉を踏み越えていく、新たな家族小説が誕生! 「そしたら僕、僕がドレスつくったるわ」“かわいい”が苦手な姉のため、刺繍好きの弟は、ウェディングドレスを手作りしようと決心し——。

手芸好きをからかわれ、周囲から浮いている高校一年生の清澄。一方、結婚を控えた姉の水青は、かわいいものや華やかな場が苦手だ。そんな彼女のために、清澄はウェディングドレスを手作りすると宣言するが、母・さつ子からは反対されて——。「男なのに」「女らしく」「母親/父親だから」。そんな言葉に立ち止まったことのあるすべての人へ贈る、清々しい家族小説。第9回河合隼雄物語賞受賞作。

引用:集英社「水を縫う」

あらすじは上の通り。

まずは、筆者が感じた「水を縫う」のポイントを紹介していくぞ。

 

 

悪者はいない

なによりも「わかりやすさ」が重視されるような現代では、物語にはわかりやすい悪役がいるもんなんだけど、この小説には悪役がいない。しいて言うなら「時代」とか「雰囲気」のような大きくて実態のないモノである。「らしさ」を圧迫させられる側(被害者)としては強いられたように感じるけど、強いた方には意思がない。明確な悪意が介在していない。

 

野菜を洗いながら「女子力」とひとりごちた。女らしいとか男らしいということ自体も良く分からない。そんなめんどくさいもん、いる?と思わずにいられない。

調理や裁縫に長けているということは性別を問わず、生活力、と呼ぶべきではないだろうか。機械に強いとか、数字に強い、などもまとめて生活力だ。

そんな世の中の偏見に対して敏感に、的確な指摘をする登場人物にハッとさせられることが多い作品だった。

 

 

個性は大事、というようなことを人は良く言うが、学校以上に「個性を尊重すること、伸ばすこと」に向いていない場所は、たぶんない。柴犬の群れに混じったナポリタン・マスティフ。あるいはポメラニアン。集団の中でもてはやされる個性なんて、せいぜいその程度のものだ。犬の集団にアヒルが入ってきたら、あつかいに困る。

と裁縫好きな男子高校生「清澄(きよすみ)」の頼もしさが終始スゴイ。

 

 

幅広い世代の視野が学べる

親の視点から書かれたストーリーがあるのも個人的には斬新だった。正直、作中では最も共感ができないのが お母さんパートだった。高校生の息子が覚悟を決めたことに対して「やめとき」と一蹴したり、「好きなことだけでは食べていけない」「私が凡人なんだから子供にだって才能なんてあるワケがない」と無根拠に断定することが多かったのでイライラしたりもした。

 

が、それに対しても、お母さんなりの愛情があることが丁寧に描かれていた。子どもが「悪目立ち」することなく、「普通」に育って欲しい、と願う気持ちの由来にも触れられていた。束縛とか毒親とか、そんな雑な言葉では言い当てられない親心についても学べる「水を縫う」だった。

 

子どもはよけいなことばかりする。

だったら先回りしてそれを取り除いておく必要がある。だって失敗をフォローしてやったり、諄々とお説教したりする時間は私にはないんだから。

 

僕自身、自分の母に

はぁ~~、おせっかいだなぁ…

と思うときも多いけど、母には上のような、自分の子供には失敗をさせたくない、という親心があったのだろうと思えたのは大きなきっかけだった。たまに帰省する所帯持ちの兄にさえ、鬱陶しいくらいに保険とかの提案をしているのも紛れもない親心なんだろうな。

 

 

恥ずかしい、という気がおこらない。お母さんなんやから、子どもにちゃんとごはんつくってやってよ。そんな言葉なら、今までに何度も他人から浴びせられてきた。自分の母親でもない女が家事において「手を抜く」ことはどうしても許せない人というのは一定数存在する。愛情を、手間の量で測らないでほしい

「母はかくあるべき」という固定観念に母として悩みながらも、シングルマザーとして2人の子供を育て上げるお母さん(さつ子)の強さに心打たれること必至。親に対して「なんでネガティブなことばっかり言うんだろう?」と思ったことのある方は是非 読んでみてほしい。

 

 

すばらしい完結(タイトルの意味)

伏線回収、というとアレだけど、「水を縫う」というタイトルの意味が最後の最後で分かる。それがまた、凄くてな。散りばめた謎を回収するわけでもなく、ただなんてことのない日常会話からのタイトル回収。

 

濁らず、腐らず、意志を持って流れていく人の物語が描かれたのが「水を縫う」という小説である。タイトル回収についてネタバレで知ってしまうのは惜しすぎる。気になった方は情報を遮断して読み進めてほしい。最後の畳みかけはヤバい。小田急線の車内じゃなかったらボロボロ泣いてたぜ危なかった。

 

 

 

水を縫う
面白かった部分

「水を縫う」を読んでみて面白かったところや、感銘を受けた一節を備忘録として抜き出しておく。多くなり過ぎたので数を減らしたが、少しでも気になるフレーズがあれば是非、本編を読んでね。

 

 

わからなくて、おもしろい

石を磨くのが楽しいという話も、石の意思という話も、よくわからなかった。わからなくて、おもしろい。わからないことに触れるということ。似たもの同士で「わかるわかる」と言い合うより、そのほうが楽しい。

 

 

無責任に親切ふりまくほうが…

「無責任に親切ふりまくほうが、不親切な結果になることもあるのよ?」

 

 

伝える努力もしてないくせに…

「伝える努力もしてないくせに、『わかってくれない』なんて文句言うのは、違うと思うで」

 

 

なにが自然がつくったデザインじゃコラ

なにが自然がつくったデザインじゃコラ、お前コラ、お前がのんきに葉っぱの生命力を感じとるあいだに息子がティッシュ喉につめて死んだらどう責任とるつもりやねんおおん?おおん?

大阪が舞台ということで、ところどころにクスッと笑えるポイントがあるのも◎。深刻になりすぎず、ちょっとした会話にじんわり心が温まることも多かった。

 

 

働いて、気絶するみたいに眠って、働いて…

働いて、気絶するみたいに眠って、働いて、かきこむみたいにごはんを食べて、また働いて、そんなふうにして今日まで来た。その間にはいろんなことがあった気がする(たとえば全との離婚)のだが、今では完全に遠景になってしまっている。そういうこともありましたねぇ、と目を細めるようにして、見ている。

 

 

なんやそれ…

「なんやそれ。自分の『普通の高校生』のイメージに当てはまる人間だけが健全なんか。さっきからくるみは違うって言うてるやん。なんでちゃんと聞かへんの。百歩譲ってくるみの気持ちがそうやとしてもなんであんたがそれを言うの?なんでさっきからずっと俺の話を無視して話すすめんの?おかしくない?」

思えば第一章の清澄パートでグッと心と掴まれた「水を縫う」だった。高校生で、裁縫が好き。フェミニンなワケでは一切なく、堂々とした雰囲気が頼もしい。そんな清澄の気付きや成長を追いたくて読み始めた気がする。

 

 

失敗する権利

「明日、降水確率が50パーセントとするで。あんたはキヨが心配だから、傘を持っていきなさいって言う。そこから先は、あの子の問題。無視して雨に濡れて、風邪とひいてもそれは、あの子の人生。今後風邪とひかないようにどうしたらいいか考えるかもしれんし、もしかしたら雨に濡れるのも、けっこう気持ちええかもよ。あんたの言うとおり傘持って行っても晴れる可能性もあるし。あの子には失敗する権利がある。雨に濡れる自由がある。」

親になったら留意したいと思う名言。

人生は多分、競争ではない。失敗を回避することだけを考えるんじゃなくって、なにかしらに挫折したり失敗したとしても、それも柔軟に・深刻になりすぎずに受け入れる姿勢こそ子供に教えてあげる必要があるのかもしれない。

 

 

飲みこむ必要のないものを飲みこみ続けて…

父は「女はきれいでかしこい」と言った。夫は「かわいい」と。ほめる態で、抑圧してきた。それは抑圧であると糾弾するための言葉を、わたしは獲得していなかった。

獲得しようとしたことすら、なかったかもしれない。飲みこむ必要のないものを飲みこみ続けて、そうやって、今日まで、わたしは。

正直、ここは難しかった。何の意図もなく、ただ自分の思った通りに「かわいい」と言ったとしても、相手は違う受け取り方をするかもしれない。自分の何気ない一言が、相手を怯ませてしまうかもしれない

 

他人を無意識に抑圧しないためにも、自分の言葉に気を配る。ぶっちゃけ、ここが一番難しいとこだと思う。線引きができるような問題じゃない。相手のことを自分本位で考えるんじゃなくて、個性やら何やらを尊重するってコトだとなんだろうか。

 

 

本人が着とって落ち着かへんような服は…

他人の目にかわいらしくうつるのは、けっこう簡単なことやねん。女の子って基本みんなかわいいからな。存在自体がかわいい。けどな、本人が着とって落ち着かへんような服はあかん。座っとるだけでいらいらして、肩に力が入ってしまって、疲れてしまう。疲れると自分で自分が嫌いになる。ようないわ水青、それは良うない。

 

 

自分に合った服は…

自分に合った服は、着ている人間の背筋を伸ばす。

服はただ体を覆うための布ではない。世界と互角に立ち向かうための力だ。

 

 

好きは好きのままで…

「あのさ、好きなことを仕事にするとかって言うやん。でも『好きなこと』がお金に結び付かへん場合もあるやろ。私みたいにさ。でも好きは好きで、仕事に関係なく持っときたいなと思うねん、これからも。好きなことと仕事が結び付いてないことは人生の失敗でもなんでもないよな、きっとな」

理解されずとも宝物は 今でも宝物のはずでしょう。

 

 

 

総括:水を縫う
読書レビュー

繊細な感性を持つ方にオススメ!

の「水を縫う」だった。小説としては、様々な「抑圧」に対する松岡家(+1名)それぞれの心情がリレー方式で綴られた感じ。なんてこともない些細な日常の綻びなどを経て、家族が前向きな方向にまとまっていく様が流麗に描かれていたのが最高だった。いやー、良い小説読んだ。

 

多様性を扱った本は、なんとなく忌避される方も多いと思う。僕も正直そうだった。

好き勝手に「多様性」だの「自由」を叫んで、画一性の美しさを乱すのがイヤ。

という方がいたら安心して読め。

そんな難しい話ではなく、とくに理由はないけど、前の世代でもそうだったからという理由だけで自分らしさや個性、好きなことを揶揄されることの辛さが分かるよ。

最近、なんか「多様性」を強要されている気がして、なんかイヤ…

という方も安心して読め。

多様性は受け入れなければいけない、的なお説教的雰囲気は一切ない。ただ、なんとなく「''普通''こうでしょ」と思うことによって、好きなコトに引け目を感じたり、やりたいことができないくらいに怯んでしまう人がいることが分かるよ。

 

 

他人への思いやりが学べて、なおかつ他人とは違う自分に自信が持てるような「水を縫う」だった。自分の人生の意義や価値について一考させられるという点でも、まぎれもなく名著。よくわからないけど意欲を沸かせてくれるエネルギッシュで優しい作品でした。

 

少しでも気になった方は読んでみてね!

 

 

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