福本伸行作品と言えば兎にも角にも
と、アニメ・ドラマ・映画化された『カイジ』シリーズと『アカギ』を推す方が多くいらっしゃる。ここで『最凶伝説黒沢』を出してくる異端は放っておいて、表題の『無頼伝 涯』を挙げる奴等がとっても少ない。掲載誌がマガジンということもあって若年層から「なんだこの絵…?」と忌避されて読まれず、1年程度で打ち切りになってしまったらしいが、しっかりと面白い。福本節(クセのある倒置法)もビッタビタ。
一時期AAとかで多用されてた
コレとかも『無頼伝涯』の1コマ。
『ユアヒューマンッ(君は人間だッ)…!』や『悪魔はみな優しいのだっ…!』など数多くの名台詞・名場面を生み出している側面もある(1年程度で打ち切られているのに!)。
そこで今回は、
- なんとなく閉塞感を感じている人
- 味気ない日常に辟易としている人
- 面白いマイナー漫画が読みたい方
に激しくオススメの傑作マンガ『無頼伝 涯』について紹介していく。ネタバレ・画バレも含むので、そこらへんは注意してね。
もくじ
打ち切りになったけど面白い!
《無頼伝 涯》の少年誌じゃウケない面白さ
打ち切り理由。掲載誌が悪かったんじゃね…?というのが僕の見解だ。ゲットバッカーズとかRAVEとかの絵柄が綺麗なマンガを熱心に読んでる当時の読者層が福本絵を読んでみる気になるか?なるワケがない。若者に外見じゃなく中身で判断しろってのは無理な話である。
既に多くの失敗・挫折の苦渋を味わって鬱屈とした感情を抱えている人にはウケる漫画だと思う『無頼伝涯』。鬼滅の刃とか呪術廻戦とかのバトル系少年漫画に惹かれなくなったような、年齢の高い方にはハマる土壌があるので是非 読んでほしい。
《無頼伝 涯》概要
「見てろっ………! オレは必ず這い上がるっ…………!」資産家の老人を殺害した犯人に仕立て上げられた中学生・工藤涯(くどう・がい)が、自分の無実を証明するために闘っていくサスペンスアクション。鳳臨グループの会長・平田隆鳳(ひらた・りゅうほう)を刺殺した容疑者として追われる工藤涯は、ビルの路地に追い込まれ、警部・安部(あべ)と対峙する。そこで涯は、自分ははめられたのだと告白するのだが……!?
引用:ピッコマ
他の有名福本作品と違いギャンブル要素が皆無である。即死不可避な鉄骨を渡ったり血液をかけた鷲頭麻雀のようなデスゲームは出てこない。あくまで上級国民によって盛大にハメられた主人公が、逆境を跳ね除けて一矢報いようともがくヒューマンドラマに仕上がっている。
セリフの一つ一つが読んでいるダメ人間にクリティカル。画も含めて笑えるシュールギャグなど他ではなかなか読めないオリジナリティー。画はまぁ上手くはないけど、「見易さ」からすれば決して下手じゃないぞ。
周りに馴染めない主人公
こちらが本編の主人公、工藤 涯(がい)。
生まれた直後、両親に捨てられて施設育ち。そんな生い立ちと思春期が相まってか、周囲の平凡な同級生とは打ち解けられずに孤立。
素行の悪さからも異端扱いされるが、本人はなんのその。むしろ、
……
と、孤立と自立が最優先。
誰にも頼らない『無頼』が信条。自己流ジャブの特訓で鏡に映る自分よりも早く打ち込めるようになったりと色々と桁違いの中学生。好きな食べ物はのりたまのふりかけ。
人間学園と澤井課長
冤罪を着せられた涯が収容されたのが《人間学園》という怪しげな施設。入所する少年たちに対して真剣に向き合うという方針の人間学園で、拷問まがいのコトは当たり前。
そこで課長を務めるのが澤井という人物。『非行少年を正す』という使命に燃えており、制裁方法のバラエティも豊か。作品全体に渡って強烈な個性を発揮したキャラクターで、言動にも芯を食ったようなものが多い。
いじめ加害者の少年には…
…
……
この制裁。こんな問答をイジメ全盛期の中高生たちが読む『週刊少年マガジン』で敢行した事実がスゴイ。そりゃ人気で出んわ。
こんなことを言っておいて、
と理不尽な愛情注入棒(電撃棒)。どう答えても澤井課長の後出しで無下になるクイズ地獄も本編の見所のひとつ。強烈なキャラクターと言動から、一部の読者からはヒロイン認定されるような人気の高い敵キャラの澤井課長である。
《無頼伝 涯》名言4選
作品の概要をチラリ紹介しようと思ったけど、よくよく考えたら5巻しかないので致命的なネタバレになり兼ねない。ので、当たり障りのない範囲で名言を4つ選んでみたので、どれかひとつにでも感銘を受けるものがあれば是非、本編を読破してほしい。
無頼伝 涯:名言①
自由とは自分に依って生きるコト
快適に暮らせる施設を飛び出した涯。
住み着いたのはボロアパート。水道もなく、公園の水を汲み置きしておくような不便な生活。電気なんて勿論なく、灯油のランプで夜をしのぐようなみすぼらしい暮らし。
しかし、その中でもたしかな手応えと希望を見出す。
押し寄せてきたっ…!
孤独…貧窮…
不便、不都合、不条理…
そんな ありとあらゆる煩わしさと心細さが
しかし…
同時に今までずーっと…
オレの体にまとわりつくようにあった空気…
空気が動き出したっ……!
何でも出来ることじゃないっ…!
自由とは自分に由(よ)ることだ…
………
圧倒的に限られていたっ…!
しかし…その限られた中で…
やはり無限だったのだっ……!
実家で暮らしているほうが楽だし貯金も貯まるってのに、
と苦悩してる人に読んでもらいたい名セリフ。なんとなく都会に出てきたりして右往左往してた20歳のオレに着払いで届けたい。自分によって生活のすべてが決まるから現実(リアル)なのだ…!というセリフも痛快で刺さる。読んだ後にボロイ一軒家に引っ越したくなるほど、刺さる人にはぶっ刺さるフレーズ。
無頼伝 涯:名言②
気がつけば悪が消える…!
至らない者に甘すぎた…
「至らない者には至らない者の理由がある…」
などという温情的な…
確かな悪を定めない…
そんな理屈が通りすぎた…!
そんな屁理屈の結論は…彼が悪いのではなく
家庭 学校 あるいは社会が悪いなどと言う
何が何やらわからない、成した悪の責任を無限に薄めていく結論だ…!
そして気が付けば『悪』が消える…!
確かに成された悪が煙のように姿を消す…!
…とまぁ、現代の少年法やらを風刺したような言動も。基本的に世論や警察などが嫌いな澤井課長である。
無頼伝 涯:名言③
ユーア ヒューマンだ…!
……
……
………
めちゃくちゃスムーズな人格矯正。
人の心理をよく理解した上での演説に心を打たれてしまう場面も。体力・気力が限界なときに優しい言葉をかけられると否応なしに『感動』させられちゃうよね。高校時代の剣道部とか、ほぼそんな感じで洗脳されてた気がしなくもないぜ。
無頼伝 涯:名言④
クズも同様に素晴らしい…!
そりゃあ…
有能な人間とやらも素晴らしい…
しかし…
クズも同様に素晴らしい…!
うまく生きられずとも…
人から見たら…徒労…不毛に見える悪あがき…
苦しみ…だとしても…
輝きだ…!
かけがいのない時間なんだ……!
だからどんなに哀しく…
ただジタバタしただけの日々だとしても…
それを…
奪う権利は…
誰にもないっ……!
才能や権力、容姿や金、育ちや血統によって人間の優劣が決まっているかのような現代の風潮。しかし、人間の価値や人生の意味なんて、他人に推し量られるモノではない。そんな当たり前に気付かさせてくれる名言である。
《無頼伝 涯》:総括
とにかく面白いので是非。
打ち切りになってしまったので後半のサスペンスアクション・頭脳戦はやや微妙。詰め込みすぎて細部を端折っている感が否めない。カイジのような理詰めで納得させられる展開は期待しない方が良いと思われる。
しかし、それ以外は非常に綺麗にまとまっている作品だ。本文で述べたように、各所でダメ人間に刺さるような人生訓が満載。
という方は仕方ないけど、読んでるうちにハマってくることも多い。そのうち、福本絵はコレじゃなくっちゃ!と盲目になるので、名言のなかに一つでもハッとするものがあれば是非 読み進めてほしい。慣れれば、なんてことないシーンでも笑えるようになるのでお得だよ。
☝笑う場面じゃないけど笑ってしまうシーン。澤井課長の手がキュート
それでは。
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