小生 女性の描くマンガは苦手ではない。
七尾ナナキとかの描くファンタジーなんかでは男性作家にありがちな露骨なサービスシーン、胸糞展開がなくて面白かったりして感動した僕だ。性差はあるもののマンガの面白さはそれぞれ違って面白い。男女違ってそれぞれ良い、というのが日本の漫画文化の豊かな土壌を感じさせる。
ただ、そんな中 こんなことを言うのは少々 気が引けるがワタクシ、女性の描く『恋愛系』のマンガは苦手である。ぶっきらぼうな言い方をすれば『性に合わない』ことが非常に多い。知り合いに勧められてNAN〇、アオハライ〇両方見たけど、まぁどんな顔して読めばいいのか分からなかった。というか無理だった。感想に困ったのでWikiでストーリー全部見て帳尻を合わせたほど読破が難しかった。
こういうシーン。
彼氏が御曹司とかとにかく家柄が良いのはいい。イケメンなのもいいさ。ただ、これで女の子が『キャーー///』とか『アタマが沸騰しちゃうよぅ///』とかなってるともうね、キツイ。まぁ描き手も男性読者に向けて描いているわけじゃないから当然なんだけどな。逆に女性がパラレルパラダイスを焚書レベルの低俗マンガに感じるようなもんだろ知らんけど。
すまん、冒頭から冗長になりすぎた。
で、今回紹介する『付き合ってあげてもいいかな』は女性作家の描く恋愛系の話である。
くどくど説明したように、女性作家の恋愛マンガが苦手な僕だ。
そんな僕でも読み手が止まらず、他の仕事を全部放り投げて最新話まで読破したのが『付き合ってあげてもいいかな』というガールズラブ(百合)漫画である。
という方もいらっしゃったかと思うが、そんな人をことごとく改心させた素晴らしい漫画『付き合ってあげてもいいかな』である。僕も薄い本くらいの期待値しかないまま読み始めたけど、今思えばそんな邪な想いでページを捲ってた自分が恥ずかしいよ。
それではいってみよう。
【レビュー】付き合ってあげてもいいかな
エッチなシーン、悶々とするシーンも作中 随所にあるけど今回はそれらについてはノータッチでいくつもりだ。エロで釣った読者が後々『もっとよこせぇ!!』と暴徒化したり、『作品の面白さはどこだぁ!!』と急に賢者タイムになられるのは作品にとっても読者にとっても益にならないからな。“圧勝”とか“辱 ―断罪―”で散々味わっただろうからな。
そういうわけで、エロを期待したかたはスマン。パラレルパラダイスの紹介記事でも見てってくれ。
まずは『付き合ってあげてもいいかな』の簡単なあらすじを紹介させてくれ。
あらすじ(1話)
主人公の一人、『ミワ』は大学に入学したばかり。
ひょんなことから同じく新入生の『冴子』と出会う。
……
と、第一印象はあまり良くなかった冴子だったけど、面倒見がよく、お調子者で朗らかな彼女。一緒にいて楽しく、次第に仲良くなっていく2人。
超モテるのに「好きな人と両想いになったことがない」パッと見いい女のミワ。
大学入学を機に軽音サークルに入り、新歓の飲み会では早速 同じく新入部員の男から告白をされる。
しかし、ミワが好きなのは異性ではなく、女性。
どうやって告白を躱そうかと悩んでいるとき、場を諫めてくれたのが冴子だった。
普段はおちゃらけているけど、いざというときにはすごく頼りになる冴子。
男と気軽に肩を組めるような冴子に興味が湧いたミワは『彼氏とかはいないの?』と聞くと
『ぶっちゃけ男には興味がない』と冴子。
さらに話の流れで、
「せっかくだからあたしたち、付き合ってみない?」
軽音サークルの仲間たちと織りなす、ホンネの女子大生ガールズラブ!!
というのが『付き合ってあげてもいいかな』の第1話。
裏サンデーで無料で読めるから是非どうぞ。
カラーも綺麗だったよ。
https://twitter.com/_tmfly_/status/1123907885669539840
女性作家ならでは(?)の恋愛女子の機微
男女平等化が叫ばれる現代ではあるが、僕は『性差』とものがあるのは純然たる事実だと思っている。いや、筋力とかコミュ力とか、色々あるのは事実。仕方ない、というと後ろめたいように聞こえるが、良いことなのだ。
そんな性差、女性作家特有にも思える素晴らしい人間観察力が分かるのが『付き合ってあげてもいいかな』という漫画だと思う。
例えば
じれったい相談をされたときの冴子。
ペットボトルをべコベコ弄って落ち着かない様子。
画力というのが何を指すのかは分からないけど、それほど描き込み量はないキャラの表情で雰囲気がほぼ100%伝わってくるのはスゴイ。キャラの言動、間も絶妙。各シーンで、なんでもないようなシーンでも何度もドキドキさせられる。上のような問題勃発シーンでは思わず心臓がキュッとするような緊張感がスゴイ。
椎名林檎の前では男が全員童貞になるように、『付き合ってあげてもいいかな』を読む僕らはバージンのような気持ちにすらなれるのだ。4巻まで読んで僕はすっかり物語に自身を投影し出したようで、『この場面、僕だったらどうするかなぁ、、』という感じで相手役に親友(男)をたまに思い浮かべてしまってキツイってのもある。バカか僕は。
リアルさがハンパない
いや『リアルさ』つってもそんなに恋愛経験がないので恐縮だけど、先述したように 読んでいて少々キツイとすら思える『付き合ってあげてもいいかな』である。事実、28話以降はワタクシ、読み続けようか迷ったくらい恋愛の辛い部分も描き切っている。あの展開はマジで困ったぞたみふる、『もう綺麗なまま物語を完結させちゃおうかしら…』と思い、そっと漫画を閉じそうになったぞ。
どうやら僕のような矮小な男が思っていたよりも女性の心は面倒くさい複雑だったらしい。良い感じに見えたのに暗転、みたいな展開では思わず口を抑えるような衝撃を随所に感じた。
まじで登場人物、とくに自身を投影してしまっていたミワとは似通った部分が人間ということくらいしかない僕だけど、それはそれは身を裂かれるなシーンがね、辛かったんですよ。。心の奥の奥、誰にも触れてほしくない部分を爪で引っ掻かれたような痛みがあってキツかった。
ちょっと仰々しい感想になってしまったけど、それでも僕は読んでいるし、これからも読み続けると思う。
具体的に何が?、と言われると返答に困るけど、そんな“言葉には言い表せない恋愛の曖昧さ”のような淡い感情を存分に感じられる『付き合ってあげてもいいかな』であった。
魅力的なサブキャラ達
面白くないマンガの特徴として、主人公達メインキャラ以外の魅力が極端に少ないという物がある。逆に脇役キャラにまで読者が目を当てられる(それどころかサブキャラの方が人気あったりする)ような漫画というのは総じて傑作が多いと思う。刃牙とかゴールデンカムイとか、魅力的なキャラがよりどりみどりだろ。
恋愛マンガでは特に顕著な気がするのがそれで、面白くない恋愛マンガというのは主人公以外のキャラが薄すぎる。主人公とペア候補のオスの問題勃発要因としてチョロッと描かれるだけだったりするのだ。主人公に自身を重ねることが出来ればよいが、できない場合はとてもじゃないが読めたもんじゃなくなる。筆者が10冊少女漫画をトライしたら うち9冊を1巻途中でこんなの読めるか!となるのは、概ねそんな感じだ。
しかし、この『付き合ってあげてもいいかな』。
僕とはかけ離れた属性(女、同性愛)のメインキャラ達にも関わらず、さくさく物語に没頭できたのはたみふるの描く恋愛がリアルっぽくて生々しく、初体験の読み心地だったのに加え、『サブキャラ』の恋愛観などについても同調しやすく描かれていた点にあると思う。
生まれてからこの方 彼氏を作ったことのない女子だったり、
リアルの恋愛にはなかなか踏み込めないけど、アニメの恋愛もので号泣するような男だったり。
そんなサブキャラ達の恋愛観についても随所、冗長になりすぎない程度に掘り下げてくれたのが良かったと思う。恋愛に興味はあるけどリアルではちょっと、という方は少なくないであろう現代に、主人公達の『ガールズラブ』以外に興味、接点を持てたの僕的に物語を読み続けようと思えた大きな要因だったと思う。
主人公以外にも成長を見守れたり、感じたりするのは良いよ。面白い、とかじゃなくて良い。
これまで音楽、映画、ドラマとして散々 見てきた恋愛モノ(というか嫌でも目に入るくらいどこでも垂れ流されていた)だけど、漫画としてはとにかく距離を置いてきた僕だ。『彼方のアストラ』みたいな感じで作中でサラっと描かれてる恋愛は楽しく読ませていただいたものの、『付き合ってあげてもいいかな』のように恋愛がメインの漫画をここまで熱中して、たまにイライラしつつも続きを気になれたのは記憶に新しい。というかない気がする。
2〇歳まで童貞、それどころかまともに恋愛したことなかった僕ですらここまでハマれるんだから、ほぼ誰でも魅了できる面白さ・新鮮さは備えていると思う。恋愛の面白さ、さらには複雑さ、面倒くささも作中で体験できる。それがガールズラブってんだから凄いよ。
恋愛に興味がある、枯渇した諸君は是非。
少女漫画、ではないのだが女性作家の描く恋愛の生々しさ、リアルさに色々 勉強できる部分があるので僕のような男にも強くおススメしたい『付き合ってあげてもいいかな』だった。
それでは。