【読む×考えさせられる◎】『言葉を生きる─考えるってどういうこと?』の書評・名文まとめ

正直、読んでて疲れる

と感じたのが池田晶子さんの「言葉を生きる─考えるってどういうこと?」という本である。浪人時代、脳が疲弊しきったときに寮長室で池田晶子さんの哲学本を読んだときはスッと頭に入ってきた記憶があるんだけど、7年程度経った今、「言葉を生きる─考えるってどういうこと?」を読んでみてビックリした。読んでいると、

そんなこと思っていても実行できるわけねーよ…

なんか世の中のすべてに否定的な見解が多いな…

と、逆張りに感じられた。物事をいちいち疑う姿勢に疲れる。端的に言うと、イライラする。不愉快になってくる。良い言い方をすれば、ドキドキする。

 

というのは多分、この数年間で僕が世の中の当たり前に馴染み過ぎたから?Youtubeのコメント欄、Twitter、ヤフコメなどで目に入ってくる他人の言葉に感化されすぎたからなのか?数年前まではスッと理解できて「なるほど…!」と思った池田晶子さんの言葉を理解するのが大変に感じた。なんなら理解できない見解も少なくなかったわ正直。

 

いきなりネガティブレビューになってしまったが、それだけ考えさせられる本だったのは間違いない。

 

 

というワケで、今回は「言葉を生きる─考えるってどういうこと?」という本について。

良く考えて、生きていきたい…

という方に是非 読んでほしいので、僕が感じた魅力を全部まとめていく。あ、記事本文では随所にネタバレや本文の引用もあるので、気になる方はここらでブラウザバックしてね。

 

 

 

 

言葉を生きる─考えるってどういうこと?
面白かったポイント

君たちは言葉を使って話したり書いたりしている。

でもどうして伝わるのだろう。

相手と君が同じことを理解できるなんて奇跡みたいじゃないか!この当たり前に気付いて驚いた君は幸運だ。その驚きが、君の考える力になる。『14歳からの哲学』の著者が贈る考えるヒント。

引用:筑摩書房「言葉を生きる─考えるってどういうこと?」

まずは、筆者が感じた「言葉を生きる─考えるってどういうこと?」のポイントを紹介していくぞ。

 

 

哲学エッセイ本

日常生活から哲学を考えていく、哲学エッセイ本に分類されるのかな?ポピュリズムだのアンチリベラルだの、そういった専門用語が一切ないので誰でも気軽に読めるという点は有難かった。

 

目次としては、

  • 第1章 心はどこに
  • 第2章 私とは何か
  • 第3章 目に見えないもの
  • 第4章 言葉の力

から構成されている本書。「当たり前」として流されているようなことを良く考え直し、本質を追求していく過程が鮮やかに、論理的に書かれているので、僕のように「良く考えていない人」でも

こんな風に考えられたらなぁ…

と羨ましく思うほど、「考える」ということが魅力的に思える本に仕上がっていた。全体的にそんな感じ。読む、というよか、考えさせられる良書だった。

 

 

極論だけど、納得してしまう文章

普遍的なことを徹底的に考えた著者の言動にビックリさせられることが多かった気がする。たとえば以下の文章。

 

つまり、便利とはじつは、決して必要からの要請ではなく、所与のものの後からの承認であるということだ。与えられて、初めて人は気づくのだ、「これは便利だ」。便利は、必要に一歩先んじている。人は、本当は、必要から便利を求めたことなどなかったのだ。これをつづめて、はっきり言うと、

便利なものは、必要がない」。

たとえば臓器移植などは患者が待ち望んだ技術ではなく、技術革新による所与。そんなものがなかった時代なら、そういうものとして自身の病と死を患者は受け入れたはず。与えられた可能性に患者は迷い、苦悩する。現代ではライフラインとして電気、水道、ガス、スマホなどが挙げられているけど、そんなモンがなくても人類は数万年 生存してきた、と。

 

納得しかけたが、少し考えて

いやいやいや!
さすがに逆張りでしょ、こんなん!

とイライラした。技術革新について、必要/不必要という二項対立で測るのは単純すぎると思った。が、一日経ってから再度 良く読んで考え直すと、まぁ 正論か…と首肯せざるを得なかった。少なくとも「ライフライン」のように、ないと生きていけないようなモノではない場合が多い。

 

また「便利なモノ」が発明されるまでは「そういうもの」として受け入れていた物事に振り回されていることが少なくない。余った時間を"有効活用できる"人は少ない。道中 色々なコトができるっつって車通勤ではなく電車通勤を選んでおいてスマホでFGOやってた僕だから良く分かる。

 

 

思考停止、逃げられない!

僕は最近、

「人それぞれ」だよね…

といって思考停止。なにか不愉快に感じたり、違和感を覚えても「まぁ人それぞれだからなぁ」と言って我関せずを貫いてきた。昨今のグローバルでリベラルな社会において下手に地雷を踏まないようにも「人それぞれ」という処世術を会得した。

 

のだけれども、まったく通用しない。僕の切り札「人それぞれ」が。哲学という人間の普遍的な、核のような部分を徹底的に問い詰めたような著者の考えに、我関せずではいられない。傍観者を装えない。

 

便利さを享受する愚昧ぐまいな人々、ただ生存しているだけの空疎な人々、夢の近未来社会とは、要するにこれである。決してわざと悲観的に言っているのではない。何のために何をしているのかを内省することなく、ひたすら外界を追求してきたことの当然の帰結である。

いちいち言葉がぶっ刺さるので途中何度も本をブン投げそうになったが、「生きてるだけで価値があるよ」という、毒にも薬にもならない平々凡々な言葉に辟易していた自分としては爽快感すらも感じる不思議な本だった。

 

 

 

 

言葉を生きる─考えるってどういうこと?
グッときた文章

「言葉を生きる─考えるってどういうこと?」を読んでみて面白かったところや、感銘を受けた一節を備忘録として抜き出しておく。多くなり過ぎたので数を減らしたが、少しでも気になるフレーズがあれば是非、本編を読んでね。

 

 

倫理は決して教育できない

別の言い方をすれば、倫理は決して、「教育」できない。教育できないからこそ、人は、わけもわからず教育しようとするのだろう。しかし、教育されて身に付くものは、「道徳」であっても、「倫理」ではない。道徳と倫理とは、決定的に別のものだ。世の人、ここを誤解している。

道徳と倫理の違いについて、強制と自由と著者。

「してはいけないからしない」、これは道徳。

「したくないからしない」、これが倫理。

「罰せられるからしない」、これは道徳であり、

「嫌だからしない」、これが倫理。

外的規範によって強制できるのが道徳であり、内的自由によって欲求されるしかないのが倫理だそうだ。はぇ~~~~。

 

 

なぜ人を殺してはいけないのか分からない

外なる規範が強くなるほど、内なる規範は弱くなる。これは道理だ。人は、状況に応じて自律的に行為する能力を失うことになる。あげく、ついにこう言いだすに至るのだ。

「なぜ人を殺してはいけないのか分からない」と。

誰かが決めた法律とかルールとかに盲目的に従っているだけでは倫理的には決してなれない。自分で考えて、答えて、決めるのは大変かもしれないけど、自分ひとりで考えることの大切さが分かった。そういえば自分に厳しい人って、他人に寛容な人が多いよね。

 

 

法律を守るのは損だと思うか?

「正直者は馬鹿を見る」というあの格言、わたしは大嫌いなのだが、あれをこの場合で言い換えるなら、「法律を守ると損をする」に他ならない。なぜ法律を守ると損をすると思うのか、それは、自分の行動規範が損得勘定にあるからである。損得勘定、すなわち、金が欲しいの女が欲しいの、果ては人を殺してみたいのまで、それら自分の欲望が世の中の法律には抵触する、罰せられると損をするから、自分の得を我慢する。これら一連の勘定を、「正直者は馬鹿を見る」と、それら正直な人々は言っているようである。この感情のいったいどこが正直なんだって?え?

その後、

正直というのは、一切の勘定というものをもたないから正直というのである

に繋がる。は、はえぇ~~~。。

「法律を守るのは損だと思うか」という質問に、悩んでしまうような方は是非、本編で。人生は要領、そんな貧相な価値観が育まれないように日頃、良く考えて生きていたいな。

 

 

科学的説明は、ただの説明…

科学的説明が、ただの説明であることを忘れると同時に、人は、この純粋経験の不思議さを忘れることになります。そして、「私が聴いている」「私が見ている」という主客二元、主語述語の性会館を、思わず知らず受け入れることになる。この世界観は、我々の経験を、自ずから痩せたものにしてしまいます。

言語は常に経験を裏切っている、という著者の言葉に困惑。

その後、さらに難解な文章が続くけど、それがまたとても興味深かった。わからないから、面白い。今は理解できなくても、いつか そういう風に考えられたらいいな。第2章「私とは何か」より。

 

 

読書とは、まったく孤独な経験です

そうではないですか。複数の人間で読書をするということはあり得ない。たとえ複数で集まって読書しても、それを読み、味わい、理解するのは、たったひとりのこの自分でしかない。けれども、このひとりで本を読むという時間の、なんと豊かで賑やかなこと、ひとりで、孤独であるからこそ、書物の中の人物や、それを著わした人物たちと、時空を超え自在に交流することができるのですから。これはまったく、孤独な精神にのみ与えられる一種の恩寵だと言うことができます。

他人との関係にさほど執着せずに、孤独の豊かさを知っているからこそ、他人との関係も本当に楽しむことができるようになる。他人の中に、自己を見る。深い自己認識が、他人との関係を深く充実させてくれるのかもしれない。

 

 

常識をぶち壊せ?

ところで「当たり前のこと」とは、別名「常識」です。この特集のサブテーマは「常識をぶち壊せ」となっていますが、じつはこれは逆でありまして、天才とは常識の破壊者ではなく、常識の発見者なのです。破壊できるような常識とは、せいぜいが世間の思い込みとか社会のルールとか、そんな程度のものであって、そんなものは常識の発見者としての天才の眼中には、最初から存在していない。どうでもいい。

「天才の定義」の一つに「それしかできない」という要素があるそうだ。どうしてもそうとしかすることができない、それ以外のことをしてまで生きていたいとは思わない。食える食えないは関係なく、それをしなければ気が済まないという情熱。そんなもの、生まれてこの方 感じたことねぇぜ…。

 

 

 

総括:「言葉を生きる─考えるってどういうこと?」
読書レビュー

イライラする自分を発見できた

「言葉を生きる─考えるってどういうこと?」だった。寄り添うでも突き放すでもなく、ぐちゃぐちゃ複雑になった現代のアレコレを鋭く見抜き、考察を重ね、言葉を巧みに操って必要最低限の言葉で説明する著者。

そんなに人って合理的に生きられねぇよ

と思いつつも、

でもそうやって生きられたらな…

と思わざるを得なかった。

 

便利さによって忙しくなった現代で、ガチガチに固まっていた心が小気味よく掘り下げられていく感覚があった。

 

哲学かぁ…
なんか言葉遊びみたいな印象があるから好きじゃないかも…

思想の価値は社会的効果で測られるべき…

という方は是非。自分が考える、ということの大切さ・不思議さが分かるので「社会的」みたいな貧しい価値観を抑えるのに役立つ。

 

 

 

 

 

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