復讐系主人公『スリースター』が斬新で面白いけど埋もれてしまわないか心配

卓球マンガと聞いて諸君等は何を思い浮かべるだろうか。

 

 

おそらく大半の方が『ピンポン』なのではなかろうか?え、稲中卓球部?あれは…卓球マンガなのか…?

 

 

マンガに、映画に、アニメになってすべからく大ヒットを飛ばした『ピンポン』の影響力は強い。強大な影響力を持つ作品は他作品にも影響し、ある卓球マンガに笑わないメガネが登場しようものなら容赦なく『パクリ』というレッテルを貼られてしまうだろう。実際 『P2』とかでさえ主人公がおかっぱっぽい髪形だっただけで『ピンポンのパクリっしょ』って言われてたくらいだからな。いい加減にしろ、目と頭の病院行ってこい。

 

 

そんな危険な卓球マンガ業界において、サイコミの方で連載されている『スリースター』という卓球マンガがある。かつてないストーリーで卓球界のタブーにも挑んだとも言われている作品だ。今回はそちらについて。

 

 

 

 

スリースター

引用:サイコミ

 

「僕にとっての卓球は、復讐の道具となった。」

親の期待を一身に背負い卓球に没頭する日高司。

しかし、その期待はいつしか強圧的になり、父は毒親化。プレッシャーに耐え、卓球を続ける司。迎えた小学生最後の大会。過酷な練習により蓄積された疲労が爆発し左足に大ケガを負う。それでも卓球を続けさせようとする父に母は激怒。父が選んだ道は離婚だった。未だ卓球に支配される父へ、司は卓球での復讐を決意した――。

 

 

 

あらすじは上記の通り。画風を知ってもらうためにも絵付きでちょっと紹介させてくれ。

 

 

まずは主人公の日高司(ひだか つかさ)の回想から。

 

子供の頃、親父に『卓球やらないか。』と誘われて始めた卓球。

 

引用:スリースター 1話

 

 

すると『ボールの星まで見えた!』と司。

 

 

引用:スリースター 1話

 

卓球というスポーツで最も必要とされる素質『動体視力』が息子にも備わっているのではないか、と感じた父親は今度は試合用の球『スリースター』という星が3つ描かれてる球を使ってみる。

 

『見えたか?』という問いに

 

引用:スリースター 1話

 

しっかりと3つの星まで見えてた、と司。

 

 

 

 

 

引用:スリースター 1話

 

息子の天性の才能に気が付いた父親はすぐに指導にかかる。

 

 

司はすぐにメキメキと実力をつけ、公式戦でも年上に勝つようになっていった。

 

 

引用:スリースター 1話

 

純粋に両親の喜ぶ顔が見たくて卓球をしていた司。

 

 

 

 

しかし、事態は一転する。

 

 

引用:スリースター 1話

 

突然買ってきたという卓球台。家族団欒の場であったリビングに置くことを勝手に決めてしまう。

 

これからはめいっぱい司を鍛えたい

 

という父は、家族になんの相談もなく会社(実業団)を辞めてきてしまったそうだった。

 

引用:スリースター 1話

 

 

()

 

引用:スリースター 1話

 

卓球に必要ない、と判断したものは司のおもちゃだろうが捨ててしまう。

 

『司を一流の選手にする』

 

と決めた父親だった。

 

そしてこの表情である

 

 

 

 

 

()

 

引用:スリースター 1話

 

それから始まった練習は質・量ともに小学生には多すぎるくらいで、司は次第に体がついていけなくなった。

 

 

引用:スリースター 1話

 

 

次第に異様なまでストイックに司を鍛えようとする父。卓球以外には目もむけなくなってしまう。

 

 

 

引用:スリースター 1話

 

 

司にとって卓球は、父親の平穏を保ち、母親を父の暴力から守るものになってしまっていた。

 

 

 

引用:スリースター 1話

 

そんな父親の練習にもなんとかついていった司は全日本選手権にも出場するようになった。

 

そんなハイレベルの試合であっても相手にリードを許さない司だったが、父親は納得いかないようで褒めるどころか試合内容で怒られる始末。

 

 

『息苦しい…』

『一体僕は…何と戦っているんだろう…』

 

 

と思い詰めながら、父親のプレッシャーのもとプレイしていると、

 

 

引用:スリースター 1話

 

ついに膨大な練習量が祟って膝を抱えて倒れ込んでしまった。

 

 

 

診断の結果『膝前十字靭帯の断裂』。

成長期を終えるまでは手術ができないので競技レベルのスポーツは諦めるように勧告される。

 

 

勿論、それで納得するわけもなく治療法について調べている父親。見かねた妻が『卓球以外にも幸せになれる』なだめても一向に聞こうとはしない。

 

引用:スリースター 1話

 

ついに妻 激怒。

 

 

『じゃあ司に確認しろ、卓球やりたいって言い出したのはあいつだ!』

と父。

 

 

両親の大喧嘩に巻き込まれた司は、ついに勇気を出して

 

引用:スリースター 1話

 

「卓球 やりたくない…」

とぽろぽろ涙を流して言うのであった。

 

 

その後、両親は離婚。父親は家族の元から離れていった。

 

 

 

 

そして司は高校生になった。

小学生の頃に名前が轟いた司だったので、噂を聞きつけた卓球部員たちが勧誘に来る。

 

 

しかし、

 

「自分に価値がないから捨てられたんだ」

「もう卓球の話なんてしないでくれ」

 

と決心の固い司だったので、勧誘は断っていた。

 

 

 

しかし、偶然 卓球雑誌の一面に父親の姿を発見する。

 

 

引用:スリースター 1話

 

 

卓球なんて、既に司の中ではどうでもよいことだった。

 

しかし、それでも家族を捨てた父がまだ他の場所で、卓球の指導していることが許せなかった。

 

 

引用:スリースター 1話

 

 

調べると、父親はある高校で指導者をやっているそうだった。

 

自分たちを捨てた父親を全否定するために、指導者としての面子を粉々にするために一度は放った卓球ラケットを握り出したところで物語はスタートした。

 

 

引用:スリースター 1話

 

 

1話で『もう卓球やりたくない…』はビビった

さぁ、どんなスポ根卓球マンガなんだろう…!と思いつつ読み始めたら子供の主人公が泣きながら『もう卓球やりたくない…』と父親に訴えるのはビビったし、心が痛かった。

 

話は飛ぶが、福原愛選手を知っているだろうか。既に引退してしまった女子卓球選手だが、彼女の卓球ライフに密着した番組が何本か制作されるような人気選手だった。

 

 

番組内では母親の猛特訓に泣いてしまう愛ちゃん。それでも特訓についていく愛ちゃんを『負けず嫌い』や『泣き虫愛ちゃん』というように制作側は愛称をつけていた。

愛ちゃんの場合、自身の根性もあって大成したが、その裏で数多くの選手が若いころ(それも幼少期)から体を酷使して膝などを壊してしまうこともあると作者の加治佐修氏は言及していた。

 

 

『スリースター』ではそのような、いわゆる『英才教育』の負の側面子供を良い選手に育て上げようとする親の狂気を1話で描いたのは斬新だと思った。1話でガッチリ心を掴まれたのは綺麗ごとだけではない、そういったリアリティの部分だった。

 

 

スポーツ漫画で復讐系主人公?

引用:スリースター 2話

 

そして驚嘆したのが主人公 日高司のキャラクター。ふ、復讐系?

 

スポーツ漫画というのは大抵 『努力・勝利』という前提で描かれていることが多い。そりゃ読者もスポーツは青春・爽やかと考えている方が多いらしく、そのようなストーリー・キャラクターに自分を投影したりして作品の熱量に引き込まれていくのだと思う。ヒットしたスポ根漫画はそういった要素を持っていた。

 

その点 スリースターでは『親父への復讐』として卓球をする主人公だ。

普通 そのような暗い過去を持つキャラは主人公に打ち負かされて改心するようなヤツが多いと思うんだけど、スリースターではまさかの主人公。

 

 

次第に『卓球って面白かったんだ…』と思い改めるのか、それとも父親への復讐に終始燃えるのか、今までにないタイプの主人公のこれからにも非常に興味が湧くスリースターだった。

 

 

 

ライバル(?)の方が主人公っぽい

引用:スリースター 3話

 

2話から登場したアマサキというキャラクターがいる。

 

主人公の父がコーチを務める彗文館高校でプレイする主人公のライバルっぽいキャラなんだけど、こういっちゃなんだがアマサキ君の方が主人公要素が強いのも面白い。司が復讐心という黒い感情で卓球をしているのに対して、アマサキ君の方は純粋に卓球を楽しんでるのが印象的だった。

 

 

引用:スリースター 3話

 

 

 

このアマサキ君がなかなか魅力的なキャラでな。ライバルキャラっていうのは僕の経験上 最初はイケ好かないキャラが多いイメージだったんだけど、アマサキ君に限っては最初っから「面白いなぁ」と感じるキャラだった。イヤな部分を見つけるのが難しいタイプ。

 

 

引用:スリースター 3話

 

人気が出たらアマサキ君視点で外伝描いても良いんじゃないかって思うくらいの天才キャラ設定も良かった。彼視点の話も面白そう。むしろ王道スポーツ漫画としてならアマサキ君の方が主人公適正があるような感じもした。ゴメン司君。それでも僕は君の成長を見守ってるぞ。

 

 

 

純粋に絵が読みやすい

Webマンガのスポーツ漫画ということで、過去に読んだ作品は画力が作者の思惑についていけず、結果 読者の僕もマンガについていけない作品があった。今回のスリースターもあまり期待しないで読み始めたのだけれども

 

引用:スリースター 4話

 

予想以上に絵が読みやすかった。

 

それもそのはずで、まったく気が付かなかったが加治佐修、ここ最近まで『バーテンダー』で作画担当していた。週刊少年ジャンプで連載を持っていたこともあったしな。どうりで上手いわけだ。

 

 

スポーツ漫画においてしばしば見られる『え、今何してんだコイツら…』という場面が2巻まで読んでも一切見受けられないのは脱帽だ。

 

 

 

 

 

そんな次世代卓球マンガ『スリースター』は先月に5月28日に3巻が発売されたばかりだ。

 

連載しているのが『サイコミ』というマンガアプリ。言っちゃ悪いがこれまで紹介してきた『マンガワン』などと比較すると色々と規模が小さいようで、ようやく1巻のコミックス(紙)発売が決まったばっかりだ(発売は今月6月18日から)。

 

スポーツ漫画というのは大手出版社では人気が出ないと悲惨な打ち切りを迎えてしまうことが多く、誰も望まないような終わり方をするマンガがこれまで何作品も読んできた(P2とかな、あれ結構面白かっただろ)。そして面白いのにも関わらず短命なのが卓球マンガだ。10巻以上続いた卓球マンガなんて稲中卓球部くらいしか知らんぞ。いや稲中卓球部は卓球マンガとは言い難いけれども!

 

 

 

現在 『スリースター』は連載アプリサイコミの中でも有望株ではあるが、いつ風向きが変わるか分からない。そもそもコミックスが売れないことには漫画家のモチベーション維持には繋がらないだろう。漫画家だって高評価だけで食っていけるわけじゃないしな。

 

 

良い作品を作るのは漫画家だけではなく、読者の力も大いにある。と思う。え、僕?僕は既に電子書籍の方で買っちゃってるからな…。給付金が届いたら配布用にもコミックス(紙)を買う所存だ。

 

 

まぁここで僕が『いいから買え!面白いから!』と言って買うようなピュアな読者はいないことだろうから、まずは『スリースター』という作品を読んでみてくれ。3話くらいまで読み進めれば面白さがきっと理解できるだろうから!

 

 

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