伏線、オチがあって熱いメッセージもあって…
そんな感じの『完成度が高い』マンガが求めてるような方がいたら申し訳ないがブラウザバック。悪いコト言わないから帰れ。当記事は、ひたすら写実的で辛い現実が続き、人生の無意味さを直視させられるような辛い漫画の記事である。僕自身 軽い気持ちで読み始めたら超絶後悔したもの。藪をつついたらアナコンダ出しちまった感じ。
で、気持ち悪いのに最後まで読まされた挙句『何それ…?』とガッカリして、やり場のない気持ちを昇華するために今記事を書いてる始末でな。こんなもん、誰に勧めればいいんだ?となって思い付いたのが画面の前の君だったわけだよ。
ただ間違いないのは『異作』で『傑作』であること。
舞台になり小説になって、連載終了してから10年経っても園子音監督のもと映画化されたりと、時代を超えて支持されてる傑作であることは明らか。なんだけど、イマイチ説明できないのが『ヒミズ』の凄さだと思う。逆に思っちゃうしな『え、これが支持されるとか日本人 大丈夫か?』って。
初見の君にも魅力が伝わるように今記事を頑張って書いてくから、良ければ読んでみてほしい。で、感想を教えてほしい。
それでは、まとめていく。
と言う方は、申し訳ないがブラウザバックしてほしい。すまん。根幹にかかわるネタバレは無論 避けるけど、要所にネタバレ含む画バレがある。そこは注意してね。
古谷実『ヒミズ』概要
人生って、とんでもねえぇぇぇ――!! 超極端な不幸に巻き込まれずに生きる、ズーズーしき「普通の人間」たち。そんな彼らに憧(あこが)れつつも、激しい憎しみを抑えきれない中3男子・住田。彼の悩みは、「自分にしか見えないバケモノ」にとりつかれていることだった……。メガヒットGAG大作『行け!稲中卓球部』から一貫して、「人生とは何か?」というテーマを問うてきた漫画家・古谷実。その魂をつぎ込んで描き出される、圧倒的な「絶望の世界」!!
引用:コミックシーモア
ちなみに作品連載時 作者の古谷実は1児の父親になっていたんだけど、作風としては紹介文にあるように『圧倒的な絶望の世界』。まぁ、救いようのない話だ。普通に考えたら幸せ期の真っ只中にいるような作者が、それまでの作風を一転して描き上げたのが『ヒミズ』という漫画である。
1巻の中腹くらいまで読めばもう途中退席は出来なくなる恐ろしい『ヒミズ』。
では、チョロッと概要を説明していくぞ。
『ヒミズ』概要
主人公は住田。
誰よりも『普通』に固執し、渇望する中学生。
しかし、彼自身は『普通』からは程遠く、父親はロクデナシ、母親は知らない男と自宅で浮気をしていたりと劣悪な環境に育っていた。
『普通』であること自体が奇跡的なのに、なんでそれ以上を求めようとするのか?
というのが彼の一つの怒り。
『漫画家になるのが夢』
というヤツがいたら
と一蹴。
それでも夢に縋ろうとすれば
…
とキレ散らかす始末。
ほとんどの人間は極端の幸不幸にあることなく一生を終える。『自分は特別』などと思い込んでる『普通』の連中がどうしても気に食わない住田だった。
”他の人には一切迷惑かけないから、どうか普通の人生を歩みたい”
それだけが住田の願いなのに、叶わない。
住田のもとにやってくるのは過酷な運命ばかり。
何の不自由もなく、『人の為になりたい!』と純粋に願えるような友人はどんどん先に進むのに対して、住田は…
駄目な両親が蒔いた不幸を背負い込まされる毎日。
しかし、
……
たまたまクズのオスとメスの間に生まれただけだ…
だがオレはクズじゃない
オレの未来は誰にも変えられない
見てろよ
オレは必ず立派な大人になる!!
自分の両親がいかにクズだろうが、自分は違う!ということを証明するために奔走するが……
というのが大まかな概要。
『ヒミズ』の凄まじさ・魅力
上の曲は、僕がヒミズを読みながらバックグラウンドで流していた曲なんだけど、奇しくもヒミズが連載していた当初に作られた曲だった。で、ヒミズが連載してたのって20年前。20年前ってお前、このブログの2割の読者は生まれてないくらいの大昔ぞ。
それなのに今の僕達が読んでも全く古臭さを感じさせず、むしろ現在でも前衛的で新鮮に感じるっていう凄まじさ。これはもう『ヒミズ』が流行り廃り関係ない傑作であることで間違いない。
では、具体的に、どこが傑作たる所以か?
絵・心理描写の上手さ
高度な心理戦を描いてるわけではないにしろ、日常を過ごす住田達 登場人物たちのリアルさは圧巻。以下のシーンを見てほしい。
ある目的が合致して、親睦を深めたように見えた2人。
しかし…
…
というね。
なんてことないシーンだが、『な、なんなんだよコイツ…』と画面からマジで聞こえてきそうな人間味あふれる表情よ。
別にヒミズから始まったわけじゃないけど、古谷実の人間描写力は異常。ギャグでも半端ない筋力で読者の腹筋を破壊していったけど、
ヒミズでは絶妙な(犯罪的)人間臭さを持つキャラクター達に心底ゾッとさせられる描写が多かった。今でいう『チー牛』に酷似したキャラが出るのも興味深い。昔じゃなく現在でも新小岩駅の前とかでよく見るようなイッちゃってる人々の描写は凄まじい。
作品の魅力として語るのはアレだけど、ヒミズ以上に『実際にどこかにいそうな気持ち悪い人物』をリアルに描いてる漫画はそうそうないと思う。そんなん描いても誰も得しないしね。だが、それをとんでもない精度で描いたのがヒミズって漫画だ。キチガイ図鑑。異常だぜマジで。
他人に甘えられない主人公
『クズの両親と違って、自分は人様に迷惑はかけない』
ということを信条としているのか、主人公は少ないながらも周囲に味方がいるのに頼るコトができない。傍から見れば死ぬほどどうでもいいプライドが邪魔してSOSを頑なに出さない。
……
生まれた環境のせいで人よりも多くの不幸・不運に見舞われる住田の苦悩は必見。個人的には自分の抱える悩みが如何にささやかで些末なコトなのかを痛感させられた。住田と比較して自分の幸福度を確かめるわけじゃないにしろ、そういった要素を感じ取ってしまう読者は決して少なくないと思う。
クズな両親のもとに生まれてしまったため、か
愛情を与えられなかったため、か
生まれつき、か
理由がはっきりしないながらも、否が応でも自分が『普通じゃない』と気付かされてしまう住田には一種の同情を持たざる得なかった。すんごい古谷実。こんな自分とはかけ離れた環境にいる人物に感情移入させられるなんて。
こんな漫画、想像力だけで創作できるレベルなのか…?
きっと普通な読者には『イヤな漫画』だ。
僕自身、読んでて胃のアタリがウッとなってた。
しかし、普通の読者だからこそ読む価値が存分にある、普通だからこそ感じることの多い『ヒミズ』だろう。
ちなみに『ヒミズ』というのは、『ヒズミ(歪み)』をさらに歪ませた造語かと思ったけど動物のことらしいよ。和名で『日見ず』とも呼ばれるモグラの一種で、決して日のあるところに出ない哺乳類だ。
総括 『ヒミズ』
なんにせよ、とんでもない漫画だと思う。過去・現在・未来を問わず、『ヒミズ』に類似したマンガなんてそうそう出てこないに違いない。超衝撃的。マジで、なんでこの漫画がこんなにも僕の心に突き刺さったのか謎だもん未だに。
お前には腐るほど道があるのに勝手に自分を追い込んでる…
周りが見えなくなって…一番ヤバそうな道を自ら選んでる…
しかも夜が明けるのを気楽に待ってりゃいいのに…
暗闇の中を這いずり回り、パニック起こして死にかけてる…
どういう人にオススメなのか、4時間かけて今記事を執筆してても思い当たらない。けど、ある程度 性根がねじ曲がってて、アジカンよりもくるりが好きになってきたくらいの精神年齢を迎えた方におすすめだと思う。分かるか?自分でも書いてて全く分からんけど伝われ。記事本文で上げた曲、くるりの中でも最高傑作レベルで良いから是非 聴いてみてね。
ということで、『ヒミズ』の紹介でした。
あ、最後になるが、住田にしか見えない“化け物”が各所で登場する。あまり考察が捗らなかったので、もし読んだ方で推論が出来た人は是非 教えていただきたい。
…
人間は時として、充たされるか充たされないか分からない欲望・信念のために一生を捧げてしまうらしい。
ヒミズの主人公は多分、そのナニカに魅入られて、振り回されてしまったのかなぁ。
それでは。
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